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「フレンチテック」10年で変貌、ユニコーンは日本の4倍 リスクマネー供給・育成拠点・大企業が実装 2023/03/08

フランスがデジタルトランスフォーメーション(DX)を強みとするスタートアップの育成で成果を出している。10年の節目を迎える振興策「フレンチテック」が世界企業との取引やリスクマネーの供給を促す。倉庫ロボット開発など、未上場で企業価値が10億ドル(約1400億円)以上のユニコーンは25社と日本の4倍に育った。外国からの投資は欧州首位に浮上し、既存ビジネスの壁を壊す企業を生み、産業構造も変えつつある。

「倉庫業の人材不足は世界的な課題だが、ロボティクス技術で柔軟に対応できる」。ユニコーン企業、エグゾテックのロマン・ムラン最高経営責任者(CEO)はこう話す。2023年度中にヨドバシカメラの物流拠点でも自動搬送システムが稼働する予定だ。

ファストリなど世界大手も採用
15年に仏北部で創業し、欧米やアジアで採用が急速に広がっている。ロボットが秒速4メートルで走行し、高さ12メートルの商品棚を3次元で動き回る。立体的に施設を使い、保管容量が従来の5倍に。倉庫を稼働したまま柔軟に拡張でき、遠隔監視によって不具合も防ぐ。

仏流通大手のカルフール、「ユニクロ」のファーストリテイリング、米衣料品大手ギャップなど世界企業が採用し、企業価値は20億ドルになった。背景にはフランスの官民で13年から始め、主にデジタル分野のスタートアップを世界企業に育てる振興策「フレンチテック」がある。新技術の実装、資金供給、世界展開を促す仕組みが特徴だ。

エンジニアのムランCEOらが倉庫ロボや制御ソフトを開発したが、飛躍のきっかけは仏電子商取引(EC)大手のシーディスカウントの支援だった。倉庫で試し、創業3年目に実用化。大企業が顧客という実績ができ、取引は広がった。

資金は22年に米ゴールドマン・サックス系などから計3億3500万ドルを調達。公的投資銀行BPIフランスが名を連ねた。同行は13年にスタートアップ支援を目的に設立し、民間のリスクマネー供給の呼び水になる。テック業界は逆風だが、エグゾテックは23年に従業員数を前年比7割増の約1000人にする。

19年に日本に進出したが、法制度は欧州と異なる。仏政府機関が技術者の訪日手続きなどを支え、「この10年でフランスの育成戦略は大きく変わった」(ムランCEO)。調査会社の米CBインサイツによると、13年にわずか1社だった仏ユニコーンは22年12月時点で25社に伸び、政府目標を3年前倒しで達成した。

30年に「ユニコーン100社」宣言
人工知能(AI)で不正請求を検知するシフトテクノロジーが保険業界の長年の課題を解決するなど、DXを促す。マクロン大統領は「30年に100社のユニコーンを輩出する」と宣言。日仏の起業環境に詳しいエッジオブイノベーションの小田嶋アレックス太輔CEOは「スタートアップが雇用の受け皿として身近な存在になり、起業を志す人が増える循環になった」と指摘する。注目銘柄120社の合計売上高は22年に110億ユーロ、直接雇用は国内だけで3万人を超えた。

振興策の3本柱の1つはオープンイノベーションを促す仕組みだ。16年からパリでテックイベント「ビバテクノロジー」を開き、今や欧州で最大級になった。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンやロレアルなど大企業が参加し、スタートアップの顧客となり、先端技術の実用化が進む。

パリに世界最大級の育成拠点
2つ目はコミュニティーだ。パリに世界最大級のスタートアップ育成拠点「ステーションF」を設け、世界から約1000社が入居。リヨンのバイオテック、トゥールーズの航空宇宙など地方都市に拠点が広がり、米国など国外にも振興組織の「ハブ」を設けた。

3つ目の資金面は公的投資銀行やファンドの支援のほか、研究開発費の大幅な税額控除などもある。外国からフランスへの21年の投資件数は1222件と、欧州で最多だった。米中と比べると、まだフランスのデジタル技術による産業変革は途上だ。若年層の失業率の高さ、車産業などの競争力の再構築など課題も多い。それでも優秀な人材が官庁や大企業に入りがちだった保守的な風土に変化が生まれ、日本が学ぶべき点は多い。

日本のデジタル競争力、過去最低に
日本の国内総生産(GDP)は世界3位だが、先端テックで産業を変革する動きは鈍い。スイスのIMDが22年に公表した「世界デジタル競争力ランキング」で、日本は29位と過去最低になった。かつて日本より低かったフランスは22位に浮上し、逆転している。
CBインサイツによると、日本のユニコーンは22年12月時点で、AI開発のプリファード・ネットワークスなど6社にとどまる。多額の資金調達は外資頼みになりがちだ。またスイスの大学などが58カ国の大学生を対象にした21年の調査リポートで、日本の起業意識は最下位だった。
大企業とスタートアップの協業は増えるが、日本は概念実証が多い。世界展開を見すえ、イノベーションを促す仕組みを早く整えないと、デジタル競争力の低下に歯止めはかからない。
(DXエディター 杜師康佑)

(日本経済新聞)

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