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「ユニクロ柳井氏」の量産へ サーチファンド 2022/08/16

起業家を生み、イノベーションを促す手段として根づくのか。経営者をめざす個人が自分で資金を調達して中小企業を買収し、価値を高めて投資家にも報いる「サーチファンド」の活用が世界的に増え始めた。波は日本にもおよんでいる。具体例をみてみよう。

東レに8年つとめた後、スペインに留学して経営学修士(MBA)を取得した志村光哉氏(36)。サーチファンドのM-Capital(山梨県韮崎市)を設け、投資家から4800万円を集めた。ここから活動資金や給与を得る。8月1日、最長2年の買収先探し(サーチ)に突入した。

成長産業で、大きな設備投資はいらず、継続的な収入が見込める。そんな条件を満たす企業向けサービスの分野で買収をねらう。

買収対象(企業価値が5億~15億円)が見つかれば、改めて買収資金を募る。その後4年以上、経営し、上場や売却などで得る利益を投資家と分け合う。エグジット後も経営を続けるつもりだ。もしも2年で買収先を探せなければ、この挑戦はそこで終わる。

祖父と父が起業家で、本人も経営者志望だが、確固たる事業アイデアはない。「いまある事業のなかからいいものを買収し世の中に貢献する。それが自分には合う」と、サーチ起業家の道を選んだ。

サーチファンドは1984年に米国で生まれ、スタンフォードやハーバードといった有力大学が中心地だ。仕組みを教える大学は各国に広がり、ここ数年でファンド設立が増えている。

起業家というと、何もないところから事業を編み出すゼロイチタイプを連想しがちだが、それがすべてか。既存の事業を改善・改良するのが得意な人もいる。この能力を生かす形の起業があっていい。サーチファンドの考え方だ。

だから「買収によるアントレプレナーシップ(ETA)」とも呼ばれる。Z世代など若い層は新たなキャリア形成の方法と位置づける。情報収集や投資家との関係づくりのため、学生が「ETAクラブ」を運営する大学も目立つ。

米マサチューセッツ工科大学でクラブの幹部をつとめた上月涼太氏は言う。「起業がいちばん尊敬されるのが今のビジネススクールの潮流だ。ETAは起業マインドが高い人の受け皿になる」

ウクライナ危機やインフレ、金利上昇を背景に世界のスタートアップ投資に急ブレーキがかかった。ある調査では4~6月期の投資額は約16兆円と前年同期比3割減った。米テクノロジー大手GAFAの創業者たちのようなゼロイチ起業に加えサーチ起業が定着すれば、多様な人材が経営者として力を発揮する機会は増える。

サーチファンドで個人は孤軍奮闘を迫られ、相当な覚悟がいるが、無謀な賭けでもない。学術的な研究が進み、買収先の見極め方などノウハウが蓄積されつつある。

84年以降に北米でできた526のサーチファンドに関するスタンフォード大のリポートがある。内部収益率(IRR)は35%前後と、ベンチャーキャピタルなど代表的な投資領域の成績を上回る。

「自ら買収対象を探し、立てた事業計画を経営者として必死に実現する。魅力的なリターンを出し得るモデルだ」。野村リサーチ・アンド・アドバイザリー(東京・千代田)の茂木豊社長は話す。ジャパン・サーチファンド・アクセラレーター(JaSFA、東京・中央)と58億円のサーチ起業家向けファンドを立ち上げた。

日本は中小企業の後継者不足が深刻だ。企業の休廃業や解散は毎年4万~5万件ある。過半が黒字経営で、いい技術や製品を持ちながら息絶える例が少なくない。

これまで事業承継問題の主たる解決策はM&A(合併・買収)だった。だが過去最高の2021年でも641件(レコフ調べ)にとどまる。M&Aにつきまとう負のイメージや会社を託す相手の顔が見えないことなどが浸透を阻む。

別のアプローチを求める声は企業売買の担い手からも上がる。日本プライベートエクイティ(東京・千代田)の法田真一社長は「事業と人をつなぐエコシステムがいる。サーチファンドはひとつの形だ」と語る。

サーチ起業家にとって買収候補が潤沢にある国。それが日本だ。

サーチファンドで走り出す事業には目をみはる成長を遂げる潜在力があるのか。JaSFAの嶋津紀子社長は「イエス」と答える。

「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長、星野リゾートの星野佳路代表が示すように「優秀な人間が何かを継いだ時の爆発力は証明されている」。両者の場合、親族内承継で大化けしたが、サーチファンドなら「全国から『柳井氏』を探せる」。広く外部人材を厳選することで成功確率が高まるとみる。

米国には携帯電話の補償・修理会社アシュリオンの例がある。サーチファンドが買収した95年に45人だった従業員は2万3000人に膨らみ、日本にも拠点を持つグローバル企業に育った。

サーチ起業家が量産され、既存事業とのかけ合わせで良い化学反応が連鎖すれば、産業界のカンフル剤になる可能性はある。その手があるのかと大企業を飛び出し、プロ意識のある経営者に変身する人材もいるはずだ。

イノベーションの先導役としての存在感を失い停滞感の漂う日本。課題が多い分、サーチファンド発祥地の米国より大きなプラス効果を引き出せるかもしれない。

(日本経済新聞)

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