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つまずくゴールドマン、リテール拡大の「野望」裏目に 2023/06/01

ゴールドマンのソロモンCEOに社内外で厳しい視線が注がれている(2月、ニューヨーク市)=ロイター

米金融大手ゴールドマン・サックスが苦境に立たされている。投資銀行や市場頼みの収益構造を改め、取引先をリテール(個人向け)に広げる戦略は事実上頓挫した。破綻直前の米銀シリコンバレーバンク(SVB)の救済に失敗した際の取引にも疑惑の目が向けられる。業績悪化で相次ぐリストラを迫られ「ウォール街最強」といわれた威信が揺らぐ。

SVB破綻に関し当局が調査
「様々な政府機関の調査や照会に協力し、情報を提供している」。5月上旬、ゴールドマンは米証券取引委員会(SEC)への提出書類でSVB破綻に関する米当局の調査対象になっていることを明かした。

SVBは破綻直前、預金流出に対応した資金調達計画を練っていた。助言役を担ったのがゴールドマンだ。金利上昇で含み損を抱える債券を売って現金を捻出し、資本が毀損した分は増資で穴埋めするシナリオを描いた。計画はかえって顧客や市場の不安を招き、預金流出の加速と株安による増資失敗につながりSVBは破綻した。

このときSVBは簿価240億ドル(約3.3兆円)相当の債券を215億ドルで売却した。その買い手に回ったのもゴールドマンだった。米民主党のアダム・シフ下院議員ら議員団は一連の取引で利益相反がなかったか、当局に徹底調査を求めていた。

逆風はこの一件にとどまらない。

「現在の戦略的な優先順位を考えると、我々はこの事業の最適な保有者といえない」。ゴールドマンのデービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)は4月、住宅修繕向け融資を手がける傘下のグリーンスカイの売却検討を始めたと表明した。

この会社は22億ドル規模の株式交換で2022年3月に買収を完了したばかり。リテール拡大路線の撤回を象徴する動きとなった。

市場は低評価
ゴールドマンが本格的にリテール事業に乗り出したのは、預金や融資を手がけるネット銀行「マーカス」を始めた16年。ロイド・ブランクファイン前CEOの時代だった。18年10月にCEOに就いたソロモン氏は路線を引き継ぎ、アップルと組んでクレジットカード事業を展開するなど、顧客基盤の拡大に取り込んできた。

もともとゴールドマンは大企業の資金調達やM&A(合併・買収)を支援する投資銀行業務と市場を相手に稼ぐトレーディング業務に注力してきた。顧客の裾野を広げたのは、投資家の評価軸が収益力の高さより安定性にシフトしたためだ。

リーマン危機前は自己資金を使った企業買収や不動産投資で高い利益を上げ、07年の自己資本利益率(ROE)は3割を超えた。危機後は自己勘定取引の規制などでROEは低下し、直近3年平均は約15%だった。

投資家の厳しい評価は、ライバルとのPBR(株価純資産倍率)格差に表れる。商業銀行業務を核にバランス良く稼ぐJPモルガン・チェースの1.4倍、資産運用会社の買収などで収益源の分散を進めたモルガン・スタンレーの1.5倍に対し、ゴールドマンは1.0倍にとどまる。時価総額もモルガン・スタンレーを2割ほど下回る。

収益多角化の柱と期待したリテール事業は軌道に乗らなかった。消費者向けなどのデジタル金融部門の税引き前損益は直近3年間で計38億ドル超の赤字になった。23年1〜3月期もマーカスの貸出債権の売却などで4.7億ドルの損失を計上した。

失敗の理由は複合的だ。ソロモン氏は「我々に競争上の優位性がなく、あまりに早く多くのことをやろうとしすぎた」と説明する。社内では「リテール強化のタイミングが悪かった」との声も上がる。米景気の先行き不安が強まる局面で与信を増やしたため、多額の引当金計上を迫られたからだ。

ソロモン氏は「消費者戦略の野望は大幅に縮小した」と強調する。4月にはアップルの一部顧客向けに貯蓄口座の提供を始め、年率4.15%の高金利で話題を集めた。だが資金調達源が分散できる預金集め以外のリテール事業は絞り込みを進める。

CEOの報酬減額「小さい」
ソロモン氏への厳しい視線は社内からも向けられる。

「報酬委員会は何をやっているのか」。2月、米南部フロリダ州マイアミビーチの高級ホテル。世界各地のゴールドマンの上級幹部「パートナー」が集結した会議では、こんな話もささやかれていたと参加者の一人は打ち明ける。

批判の対象はソロモン氏の報酬だ。22年は2500万ドルと3割減ったが、パートナーのボーナスは4〜5割減といわれ「トップの削減幅は小さい」(同)と不満が渦巻く。

ゴールドマンは1月に全社員の6%にあたる3200人のリストラも実施し、近く250人規模の追加削減に動くと米メディアは伝える。縮小均衡が続き経営陣の求心力も弱まっている。

ソロモン氏ら経営幹部は投資家説明会などで「ワン・ゴールドマン」という理念を再三訴えている。部門横断で顧客ニーズをくみ取り、収益機会を広げるという趣旨だが、かつて日本のメガバンクが合併後の組織内融和のために使った言葉にも重なる。組織の一体感を高め、覇気を取り戻すまでの道のりは険しい。

(ニューヨーク=斉藤雄太)

(日本経済新聞)

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