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インテグラル山本礼二郎氏 「腕力ある善玉」人を動かす 2022/01/06

生き馬の目を抜く投資ファンド業界で短期回収を優先する「ハゲタカ」とは一線を画し、「ハートのある投資」を目指しているのがインテグラル。代表取締役の山本礼二郎さん(61)は「腕力ある善玉」を信条にアデランス、ヨウジヤマモト、イトキン、東洋エンジニアリング、スカイマークなどの経営改革・再建に取り組んできた。心のつながりを重視する「浪花節型の投資ファンド」を統率する。

インテグラル代表取締役の山本礼二郎氏は「腕力ある善玉」を信条にしている
――企業再生を通じて様々な経営者と仕事をしてきたと思いますが、リーダーに必要な資質とは何でしょうか。

「人の心を動かすことができるのがリーダーの第1条件ですね。反対者がいても、決断に納得してもらい、実行することができる。他人が認めてくれなければリーダーにはなれません。大切なのはどんな状況でも結果を出し続けること。結果が出ていれば、人々の疑念や批判は消え、支持や協力に変わっていきます」

「優れたリーダーは人間的な魅力も持ち合わせています。心を通い合わせることができれば『大変だけどあの人のために頑張ろう』と周囲も付いてきてくれる。そのためには人の心や全体の状況を敏感に感じ取るアンテナが必要です。木を見ながら、森も見ることができる。そんなバランス感覚があるリーダーが率いる組織は勝負にも強い」

――「腕力ある善玉」が信条ですが、その真意とは。

「競争ですから経済活動で勝ち負けが出るのは仕方がないことです。特に経営危機に陥ったら交渉、資金、人脈、調査能力、経営・法律知識など力業がどうしても必要になってくる。でも苦しんでいる相手の足元を見て、リストラや資産売却などを強引に迫るハゲタカファンドのような手法は日本のビジネス風土にはなじまないと感じてきました。私利私欲を優先するだけでは問題は解決しません」

「企業経営や投資を動かしているのは人間です。ウィンウィン(相互利益)の関係でなければ良い方向には進まない。きちんと相手の顔を見て本音をぶつけ合い、しっかりした信頼関係を築く。それがなければ経営再建は成功しないでしょう。力業もできるし、相手に喜んでもらえる存在にもなれる。両方を兼ね備えたリーダーを私は『腕力ある善玉』と呼んでいます」

雪崩事故に遭い、消息不明になった一橋大学山岳部の先輩たちを弔うために訪れたインドのヒマラヤ山脈で(2019年)
――腕力がある人間はやはり悪玉になりやすいですか。

「力を持つと人間はおごりがちですよね。でも『おごれる者は久しからず』というように良い結果が出ないことが多い。思い出すのは2017年にアデランスが実施したMBO(経営陣が参加する買収)による上場廃止。以前、アクティビスト(物言う株主)として知られる米投資ファンドが筆頭株主になり、経営をかき回されたため、業績悪化に陥るなど苦しんでいた」

「そんなときにアデランスの経営陣がインテグラルに接触してきたのです。初対面でしたが、とりあえず東京・銀座の和食店に出かけて一緒に酒を酌み交わしているうちにすぐに意気投合してしまった。会話の9割以上はビジネスに関係ない話題だったと思います。要するに信頼関係を築くことができたんです。人間は論理だけではない。ハートがつながることが重要です。以来、交渉が一気に進み、2カ月後にはMBOの発表までこぎ着けていました」

明るさと笑いを結束力に
――最初にリーダーシップを身に付けるきっかけになった出来事は何でしたか。

「大学時代に所属した山岳部が大きかったかもしれません。冬山も岩登りも常に死と背中合わせです。リーダーは天候や山の状況、メンバーの体力や精神状態を冷静に見極め、必要に応じてその日の登はんを休むことも決断しないといけない。さらに狭いテントで仲間と長時間過ごすのはかなり気を使います。精神状態を正常に保つには明るさや笑いが絶対に欠かせない」

「もともと私は大阪生まれで吉本新喜劇などのお笑いが大好きですから、自分の役割はチームの潤滑油だとずっと意識していました。その場の空気をどうほぐすか、どうしたら皆に心地よい環境になるか、いつも考えています」

――経営危機を経験した会社を再建するには「ムードの切り替え」が効果的ですね。

「顔が見える経営が理想ですが、逆に言うと顔が見えない経営は危ない。企業経営にとって『規模と時間』は大敵です。規模が大きくなるほど、時間が経過するほど、人心が離れやすくなる。09年に資本参加したヨウジヤマモトの場合、アトリエ、販売、管理など部門が違うと顔も知らない人間がたくさんいる状態でした。これでは一体感が生まれない。そこでユニークな海外研修を取り入れました。異部門の4人でチームを作り、1週間から10日ほど好きな国を視察してもらうのです」

「4人の組み合わせも視察先もまったく自由。新型コロナウイルス禍になるまで年間120人は研修に出ていたので、5年で全社約600人が一巡するペースです。これで作り手と売り手の意識がグッと近づき、活気が出てきました。業績も上向き、社内で結婚・出産ラッシュが起きたほどです。社員の気持ちが前向きになった証拠でしょう」

職場の安心感作りに腐心
――インテグラルは少数精鋭のプロ集団。統率するのにどんな苦労がありますか。

「金融、商社、IT(情報技術)、弁護士、公認会計士などを経験した約70人の多才なタレント集団なのでプライドも高いし、個性派も多い。そのまま放置していたら遠心力が働きかねません。そこで大切にしているのが各社員の心を親身になってケアすること。単純なことかもしれませんが、温かみがあり、安心感が持てる職場だからこそ、初めて個々の社員の能力をうまく引き出すことができる」

「実は私自身も周囲に救われた経験があります。01年に妻をがんで失い、子供を抱えてシングルファーザーをしていました。その際、保護者仲間に応援してもらったし、会社の先輩・後輩や同僚たちにも温かく励ましてもらった。その恩は生涯忘れられません。その後、私は再婚して家族にしっかり支えてもらっています。所詮、人間は1人では生きていけない。1人でできることも限られている。そんな人生観も私のリーダー論に大きく影響しています」

(編集委員 小林明)

一橋大で山岳部に所属
やまもと・れいじろう 1960年大阪府生まれ。一橋大経済卒、84年三井銀行(現三井住友銀行)入行。91年社費留学により米ペンシルベニア大学のウォートン校で経営学修士(MBA)、ローダー研究所で国際関係論修士(MA)取得。
ユニゾン・キャピタル、GCAなどを経て、2006年インテグラル共同設立、代表取締役パートナー就任(07年稼働)。
小中高はサッカーに熱中。大学では「自然に向き合いたい」と山岳部に。人生に必要な多くのことを山登りから学んだ。

お薦めの本
「比喩表現辞典」(中村明著)
古今の名作に使われた約7000の比喩表現を紹介した辞典。「人の心を動かす言葉」を磨くために大学時代から愛読してきました。読み物としても楽しい。プレゼンや商談などにも応用できます。

(日本経済新聞)

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