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エヌビディア1兆ドル企業の道 ゲーム注目、AIで開花 ファンCEO、半導体設計に集中 2023/06/20

革ジャンがトレードマークのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)が率いる米エヌビディアが脚光を浴びている。人工知能(AI)用半導体で8割のシェアを握り、時価総額は一時1兆ドル(約140兆円)を突破した。台湾出身のファン氏は幼くして米国に渡り、30年前に同社を設立してアメリカンドリームの体現者となった。

「グランドスラムは6.99ドル」――。シリコンバレーの南端に位置するサンノゼ市。サンフランシスコ湾岸を南北に貫く州間高速道路680号沿いにあるデニーズは、エヌビディア創業の舞台となった場所だ。6月上旬に訪れると店内は満席で騒がしく、入り口の外にまで行列ができるにぎわいだった。

「グランドスラム」とはパンケーキや卵、ソーセージ、ベーコンなどを盛り付けた朝食セットのこと。ファン氏はちょうど30歳になった1993年、技術者仲間のクリス・マラコウスキー氏やカーティス・プリエム氏と同じような朝食を目当てにデニーズに通い、コーヒーを飲みながら起業のアイデアを語り合った。

「羨望」を社名に

台湾生まれのファン氏は親類を頼りに9歳で渡米し、オレゴン州立大学とスタンフォード大学で電気工学を学んだ。米半導体大手のアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)などで実務経験を重ねて半導体分野の知見を蓄えた。

当時のパソコンは文字列によって指示を与えるのが主流だったが、家庭用ゲーム機などを中心に3次元(3D)グラフィックスの時代が到来しつつあった。ファン氏らは「羨望」を意味するラテン語の「INVIDIA」などにちなんで新会社を「NVIDIA」と命名。後に「GPU」と呼ばれる画像処理半導体の開発に着手した。

90年代の家庭用ゲーム市場をけん引していたのは任天堂やソニーなどの日本勢だった。ファン氏はセガ(現セガサミーホールディングス)との関係を深めることに成功し、95年に「セガサターン」向けのゲームをパソコン上で動かせる画像処理半導体「NV1」の発売にこぎ着けた。

誤算だったのは米マイクロソフトが同年に発売した基本ソフト(OS)「ウィンドウズ95」の仕様だった。同社のグラフィックス処理のルールに対応しないNV1は本来の性能を発揮できず、大量の在庫を抱えた。共同創業者のマラコウスキー氏は「商業的に失敗だった」と振り返る。

起死回生のヒットを呼び込んだのは97年に発売した3つ目の画像処理半導体「RIVA128」だ。マイクロソフトの仕様に準拠しつつ、ライバルを上回る描画性能を実現した。4カ月で100万個を販売し、ゲーム分野でエヌビディアの存在感を印象づけた。

TSMCと成功

「顧客を無視すべし」――。ファン氏を支える経営哲学の一つだ。技術の進歩は顧客にも予見できないとの信念から、起業後の最初の5年間は市場調査を一切行わなかったという。代わりに半導体産業の経験則である「ムーアの法則」を信じ、トランジスタの集積度を高めることで性能向上と価格低減にまい進した。

過去にはパソコン大手に高機能品を売り込もうとすると「予算オーバーだ」とはねつけられた。それでもファン氏の方針がぶれることはなかった。飽くなき性能へのこだわりが、70社近く存在したライバルとの競争を勝ち抜く原動力になった。

さらにファン氏の独創性が発揮されたのが、生産を外部に委託するファブレスの発想だ。後に世界最大のファウンドリー(受託製造企業)となる台湾積体電路製造(TSMC)創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏と直接交渉して98年に提携し、半導体の分業モデルの先駆けとなった。

米インテルが設計と製造の両面で半導体産業の覇権を握っていた時代に、エヌビディアは経営資源を設計に集中させることで一点突破に成功した。ファン氏は「TSMCの取り組みがなければ(現在の)エヌビディアはなかった」と語る。

GPUの需要がゲームの枠を超えて急増するきっかけとなったのは、2012年に開かれたAIの画像認識コンテストだ。カナダのトロント大学の研究者らがGPUを使って鍛えたAI「アレックスネット」が2位に圧倒的な差をつけて優勝し、世界の研究者に衝撃を与えた。

AI研究の大家であるジェフリー・ヒントン氏らが主導したこの研究成果は、複数のデータを並列処理するGPUの特性がAIの性能を飛躍的に高めることを示した。高性能GPUを得意とするエヌビディアにも視線が注がれることになった。

エヌビディアは米起業家のイーロン・マスク氏やサム・アルトマン氏が15年に米サンフランシスコで立ち上げたオープンAIにも創業初期からGPUを供給している。同社は22年11月に対話型AI「Chat(チャット)GPT」を公開し、世界を驚愕(きょうがく)させることになる。

チャットGPTのような生成AIは大量のGPUなどで構成するデータセンターで文章や画像、音声など様々な素材を学習する。GPUは高度なAIをつくりだすインフラそのものだ。独調査会社スタティスタはGPUをはじめとするAI用半導体の市場規模は28年に21年比で12倍の1278億ドルに拡大すると予想する。

チャットGPTが火を付けた生成AIブームによってエヌビディアの時価総額は6月中旬に半導体メーカーとして初めて終値ベースで1兆ドルの大台を突破した。米ブルームバーグ通信によるとファン氏個人の純資産も約385億ドルと年初来で3倍近くに増えた。

米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス氏やマイクロソフトのビル・ゲイツ氏ら成功を収めた起業家の多くは還暦を待たずに経営の第一線を離れた。米テック大手で創業者がCEOを務めるのはメタのマーク・ザッカーバーグ氏ら数えるほど。ファン氏の去就にも注目が集まる。

ファン氏は「テック業界では10年ごとに会社を再発明することが必要だ」と語っている。AI用半導体は米グーグルやメタが内製化を急ぐ。生産面でも米中対立や中国による台湾侵攻といったリスクを抱える。エヌビディアの次の10年のかじ取りはこれまでになく難しいものになる。

(シリコンバレー=渡辺直樹)

(日本経済新聞)

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