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カーライルCEO「エネルギー転換、数十年続くチャンス」 2022/05/25

ウクライナ危機の影響でM&A(合併・買収)市場が停滞している。プライベートエクイティ(PE=未公開株)業界の資金調達にもやや減速感が出てきた。運用総額3250億ドル(約42兆円)の米大手投資会社、カーライル・グループのキューソン・リー最高経営責任者(CEO)は「不確実性や不安定な相場環境がチャンスを生む」と強調したうえで、脱炭素に向けたエネルギー転換を有望分野に挙げた。
――株式市場の不安定な動きやウクライナ危機を受けて、1~3月期のM&A市場は急減速しました。いつM&Aは正常化するとみていますか。
「買い手も売り手も企業価値を再評価するために、一歩後退を迫られた。世界は絶え間なく変化しており、こうした環境下で今後の適切なバリュエーション(価値評価)はいくらかという観点で見直しが進んでいる。地政学的な緊張は続くとみられ、グローバル化のあり方も再定義される」
「(投資家にとって)不確実性やボラティリティー(市場の変動性)はチャンスも生む。優れたCEOや企業はどんな機会があるかを考え始めている。私たちは世の中が以前の状態に戻るとは想定せず、その中でカーライルがいかに前進していくかを考えている」
――投資先企業の業績は1~3月期に悪化しませんでしたか。
「カーライルの投資先企業はインフレ進行に対応できている。実際に成長し、マージン(利益率)は拡大した。ただサプライチェーン(供給網)や物流網については、強靱(きょうじん)性を高めるための投資をしなければならない」
――英調査会社プレキンのデータによるとPEの資金調達に減速感が出ています。カーライルの新たなファンドの設定や投資戦略に影響は出ていませんか。
「PEファンドの資金調達については(大手ファンドによる資金集めの集中で)非常に混雑しており、想定よりも少し時間がかかるかもしれない。カーライルは過去12カ月で500億ドル、直近四半期に90億ドルの資金調達を完了した」

――今後5年間を見渡したときに有望な投資分野はどこですか。
「エネルギー転換は今後何十年にもわたって大きなチャンスをもたらすだろう。(ロシアのウクライナ侵攻という)今回の戦争は、代替エネルギーや再生可能エネルギーへの移行を加速させる必要性を明確に示した。ただし円滑な移行には伝統的なエネルギーや(天然ガスなど)炭化水素にも投資する必要がある」
「投資先は再生可能エネルギーの成長企業から、液化天然ガス(LNG)ターミナルなどにも広がっていく。エネルギー安全保障の観点で強靱(きょうじん)性を高める必要があり、関連分野はすべて対象となる。伝統的なエネルギーであってもESG(環境・社会・企業統治)のレンズを通して投資する」
――カーライルはこのほど立ち上げたプライベートクレジット・ファンドで46億ドルを調達し、目標額(35億ドル)を上回りました。
「投資家は従来の債券よりも高い利回りがあると評価している。ほとんどが変動金利商品なので、金利上昇局面で需要が高まる。借り手側も伝統的な銀行から借り入れたり、起債したりするよりも、簡単に早く資金を調達できる」
――他の投資会社もプライベートクレジットを強化しており、競争は激しくなっています。融資基準が緩くなり、将来の火種になりませんか。
「融資の質が重要だ。カーライルのCLO(低格付けの企業向け融資を束ねたローン担保証券)を見てほしい。私たちはCLO運用大手の一角を占めているが、デフォルト(債務不履行)は業界平均の半分に抑えている。(投資家の)資金流入に比べて、(企業の)借り入れ需要が伸びていなかったら問題になる。足元では融資機会が拡大し、資金を吸収できている」
――アジアはグローバル化の恩恵を受けてきましたが、ウクライナ危機で揺り戻しが懸念されています。今後も投資対象として魅力的といえるのでしょうか。
「こうした局面ではローカルな企業への投資や、ローカルな出口(売却)が非常に重要だと考えている。中国は人口動態や消費者動向から、世界最大の経済大国に成長するとみている。インドは経済成長の最も早い地域のひとつであり、世界経済での存在感は高まるだろう。日本にはまだ多くの変化が必要だが、その分だけ大きなチャンスがあると考えている」

――中国経済の先行きをどう見ていますか。
「新型コロナウイルス対策については中国がうまく適応し、抑え込みに成功することを願っている。短期的に問題はあるが、あらゆる国が乗り越えてきた。長期的にみれば国内総生産に占める個人消費の比率は低く、消費関連は伸びる余地がある。医療関連のビジネスチャンスも大きい」
――プレキンによると、PE投資家は中国への資金配分にやや慎重になっているようです。出資者(LP)から懸念の声は聞こえてきませんか。
「むしろ出資者との会話で出てくるのは、中国への資金配分を増やす方法を考えなければならない、という話だ。世界経済における中国の存在感は高まっているが、年金の全運用資産に占める中国の割合はまだ少ない」
「(年金から運用を委託される)カーライルにとって中国に投資すべきかどうかは問題ではない。問われているのは、投資をするための最良の方法だ。私たちは中国で20年以上活動し、現地に根ざしている強みがある」
――人権問題などを抱える中国はESGの観点で投資可能な地域といえますか。
「欧米でも極東でも、同じESGレンズを適用する。カーライルにとっては地域的な問題ではなく、投資先企業が私たちの基準を満たすかどうかが重要だ。出資者は私たちが投資でESGを徹底していることに満足していると思う」
Kewsong Lee 米投資会社ウォーバーグ・ピンカスを経て、13年にPE担当副CIOとしてカーライル入社。18年に共同CEOに昇格し、20年から単独CEO。米国商工会議所中国センター諮問委員会の議長、米中ビジネス協議会の副議長も務める
危機が問う社会的責任とリスク管理
PEファンドを運営する投資会社は巨大化が進んだゆえに、社会的責任はかつてないほど重くなった。ロシアのウクライナ侵攻で、世界はグローバル化の再定義を迫られた。特にエネルギー政策や供給網の見直しは必至で、カーライルはそこに投資機会を見いだしている。

エネルギーの脱ロシア依存は優先課題だ。脱炭素の流れは不可逆的とはいえ、短期的には化石燃料への投資を増やさざるを得ない。一方、監視の目が届きにくいPEが化石燃料インフラの担い手になり、脱炭素が滞るとの懸念もある。カーライルをはじめとするPE各社は、エネルギーの投資案件ごとに透明性の高い情報開示が求められるだろう。

プライベートクレジット分野は、2008年の金融危機以降に急拡大した。銀行が資本規制の影響で融資を絞るなか、カーライルなど投資会社による融資が隙間を埋めてきた。もっとも本格的な金利上昇と景気後退局面をまだ経験しておらず、耐性は未知数だ。投資会社はエネルギー安全保障と脱炭素の担い手としての責任に加え、リスク管理の巧拙も問われようとしている。

(ニューヨーク=宮本岳則)

(日本経済新聞)

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