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シリコンバレー銘柄の沸騰は米株式市場の歴史に残る創造的破壊、日米の落差 2023/06/03

このシリコンバレー銘柄の沸騰は米株式市場の歴史に残る。5月25日、半導体大手エヌビディアの株価が24%上昇して時価総額が1840億ドル(約26兆円)も増えた。約32兆円のトヨタ自動車1社分に迫る富を一日で生んだ背景は、人工知能(AI)向け需要への期待だ。時価総額は今週、半導体メーカーで初めて1兆ドルを超えた。

奇妙でもある。シリコンバレーと一体の経済圏であるサンフランシスコは「失敗した街(failed city)」と呼ばれ、経済の不振や治安の悪化が連日話題になっている。テクノロジーの街の明と暗は何を訴えているのか。

暗部から見よう。まずヒトが去った。サンフランシスコは遠くから通勤する人が多かった。それだけにコロナ禍で在宅勤務が定着、3%台だったオフィス空室率が30%に跳ね上がった。人が来なければ飲食店も商売にならず、街を歩いても5軒に1軒が閉店中だ。

カネも去った。昨年からの急速な利上げでテック企業の評価額は目減りし、投資家は警戒を強めた。3月のシリコンバレーバンク(SVB)の破綻で、同社がけん引していたベンチャー企業向け融資も干上がった。同融資は今年、5月中旬まででわずか50億ドル。年間でも355億ドルだった昨年に遠く及ばないのは確実だ。

だが、これらの暗部を「スクラップ・アンド・ビルド」のスクラップの過程と見れば、ビルドの芽である「明」との共存も奇妙でなくなる。

シリコンバレーの経済史は、幾重にも押し寄せる大洋の波だ。ブームの波が来て、マネーを引き付け、高まった末に崩壊し、次の波が来る。今回もコロナによるデジタル機器の需要拡大が火をつけ、カネ余りが油を注いだブームは終わった。それでも企業は次の波に乗ろうともがいている。

筆頭候補がAIだ。エヌビディアは、強みを持っていた画像処理半導体(GPU)の技術をAIに使えると見抜いていた。地道な研究開発を続けてAI向け半導体で独走態勢をつくったところに、対話型AI「Chat(チャット)GPT」人気が爆発した。世界景気の不振で業績の悪化が続いたアップルなどのビッグテックも、AIの活用で再加速を狙う。

起業の急増も新陳代謝の表れだ。コロナ前の19年に月平均30万件に満たなかった全米の新規事業申請が、今は40万件を超える。アマゾン・ドット・コムやグーグルが反転攻勢に備えて踏み切った人員削減は話題をさらったが、人々のたくましさが吸収している。

マネーはシリコンバレーの巻き返しに気付いている。上昇する日経平均株価も、今年の上昇率はドル建てでも円建てでもテック銘柄の多いナスダック総合株価指数にかなわない。「GAFAM」の株価を平均した指数はさらに上を行き、エヌビディア株はその上だ。

サンフランシスコのJPモルガン・チェースの建物の前に、葬るだけではなく進化につなげる新陳代謝とは何かを考えさせるプレートがある。テック企業専門の投資銀行H&Qを率い、2002年に早世したダニエル・ケース氏への感謝を示している。アップルやアマゾン、バイオテックを開拓したジェネンテック……。名うての企業を育てた伝説のバンカーだ。

H&Qは1999年、融資力を武器に東海岸から参入した巨大金融機関との競争に敗れてJPモルガンの軍門に下った。だがウォール街の老舗がテック業界で存在感を保ち、サンフランシスコで世界最大級のヘルスケア企業見本市を毎年開けるのも、もともとはケース氏が築いた信用力のおかげだ。H&Qの社名は消えたが、レガシー(遺産)は今も輝いている。

「創造的破壊」。プレートを見て浮かぶ言葉だ。経済学者シュンペーターが「すべての資本主義的企業がこのなかに生きねばならぬ」と要求した厳しい改革。これこそが、想像を超える速さで進むAIの普及を受けて前倒しで始まった米国の変化の正体だ。

日本の課題でもある。開業率や廃業率は米国の半分にすぎず、その結果労働生産性も先進国の最下位層に沈んだままだ。

創造的破壊が避けて通れないと力説する人物は現在もいる。ウォーレン・バフェット氏だ。2月、自身が率いるバークシャー・ハザウェイの株主に「資本主義は優れた商品やサービスを生む半面、敗者も増殖する」と訴えた。そして今、同氏は日本株の追加投資を視野に企業の観察を続けている。

バフェット氏が4月に訪日して始まった株高は、2012年末からのアベノミクス相場とは背景が異なる。当時の仕掛け人だった安倍晋三首相や黒田東彦日銀総裁が金融緩和で企業を延命したのとは逆に、バフェット氏は創造的破壊の強みを信じている。

アベノミクスを受けた海外マネーの日本株買いは、企業のゾンビ化を見透かして3年後に失速した。バフェット氏や同氏を信奉する世界の「バフェット・チルドレン」が日本に熱い視線を送る今、企業が期待に応えて株高を続けるための解は自明だ。避けてきたスクラップ・アンド・ビルドを断行し、生産性を高めるしかない。

4月以来、外国人投資家による日本株の買い越しは約4兆円に達した。それでも15年以来続いた合計19兆円に及ぶ売り越しの2割が戻っただけだ。バフェット氏は、止まったクルマのエンジンを起動させた。アクセルを踏む責任は、日本の経営者にある。

(日本経済新聞)

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