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International Political Economy Updates

タイ、IPO盛況も育たぬ「ユニコーン」 起業環境に差 2023/05/31

【バンコク=赤間建哉】タイで「ユニコーン企業」(企業価値10億ドル=約1400億円=以上の未上場企業)の育成が遅れている。4月時点の企業数はわずか3社で、シンガポールやインドネシアよりも少ない。新規株式公開(IPO)数が増え、景気は上向きだが、新興企業の不在はタイ経済の将来的な競争力低下につながりかねない。

米調査会社のCBインサイツによると、4月現在の世界のユニコーンは1200社を超え、東南アジアを拠点とする企業は28社ある。そのうちタイは3社と、シンガポール(14社)、インドネシア(7社)より少ない。日本は6社だ。

ユニコーンは企業として成熟期に向かう際に上場するケースが多い。IPOが増える国では一般にユニコーンを含む新興企業数も増える傾向にあるが、タイは当てはまらない。

タイのIPO数は2023年、22年比で2倍の80社に達し、資金調達額も22年の約4950億バーツ(約2兆円)を大幅に超える見通しだ。新型コロナウイルス感染症が収束して経済が回復する中、大企業を中心に資金ニーズが高まっているのが理由だ。

一方、タイのユニコーン3社のうち、フィンテックのアセンド・マネーとデリバリー事業のLINEマンは、それぞれ、最大手財閥のチャロン・ポカパン(CP)グループとLINEの傘下企業だ。一から事業を立ち上げたのは宅配事業を手掛けるフラッシュ・エクスプレスだけだ。

シンガポールではケーブル通信大手のハイアルルート、産業機器の電子商取引(EC)のモグリックスなどが成長、インドネシアでも宅配大手のJ&Tエクスプレスが企業価値200億ドルまで成長するなど、上場してユニコーンを卒業した配車大手グラブやゴートゥーに続くユニコーン企業が相次いで誕生している。

ユニコーン数で差がつくのは起業のしやすさと無縁ではない。タイは「起業を促す政策が他国に比べて見劣りし、市場規模も大きくない」(デロイトトーマツグループの浅間元平シニアマネジャー)。タイのスタートアップ数は300程度とシンガポール3000社、インドネシアの2100社超に劣る。

イスラエルの調査会社スタートアップブリンクの22年起業エコシステムランキングによると、タイは世界で53位と前年から順位を3つ落とした。シンガポール(7位)、インドネシア(38位)、マレーシア(42位)に劣り、ベトナム(54位)とフィリピン(57位)の追い上げを受ける状況だ。

タイの起業家支援策は他国に比べて見劣りする。タイ政府はデジタル経済振興庁など複数の政府系ファンドを持つが、スタートアップ1社あたりの出資額は2万〜15万ドル程度にとどまる。シンガポールの一般的な政府系ファンドの出資額が35万〜700万ドルとされる中、規模で劣る。スタートアップ振興の中心となる政府機関もなく、出資や補助金の手続きに数年を要するとの指摘もある。

財閥など大手企業による寡占も要因だ。飲料や食品など大企業が特定の市場を独占し、スタートアップの新規参入は難しい。「タイ株式市場に上場する企業のうち75%が同族経営」(アユタヤ銀行の畑哲也シニアバイスプレジデント)とされ、産業の新陳代謝が進みにくい構造がある。

5月中旬の総選挙で躍進した前進党を含む民主派野党が「独占禁止と公正な競争」を基本政策とするのもスタートアップ創出につながらない危機感からだ。

調査会社ユニバーサムによると、タイのIT(情報技術)専攻の卒業生が就職を希望する企業は米グーグルやマイクロソフト、タイではタイ石油公社(PTT)など大企業が占める。創業5年のEC企業幹部は「起業家も少なく、新興企業が人材を採用するのも難しい」と嘆く。

タイの新興企業に詳しい日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所の高橋紗代氏は「農業や環境の課題など社会的なインパクトを狙った起業が増えればタイでもユニコーンが増える可能性はある」と指摘する。他国に比べて進む高齢化も医療テックなど新ビジネスが生まれる上で好機になる。

タイはシンガポールなどと比較して安い物価や賃金、日系企業など大手企業の集積をアピールし、起業家を育て、投資家を呼び込む施策が不可欠になる。

日本もタイと同様に大企業志向が根強い。スタートアップ数は2000社強とインドネシアと同程度だ。起業支援などのエコシステムは整備されてきたが、経済を硬直化させないためにも、さらに起業家精神を醸成する必要がある。

シンガポール、業種の多様化進む
シンガポールやインドネシアでは、グラブやゴートゥーなど「第一世代」のユニコーンが上場後も継続的に有望スタートアップが生まれている。

シンガポールは政府主導で起業エコシステムの整備が進み、株式売却益が非課税になるなど投資家を呼び込みやすい環境がある。インドネシアは人口2億7000万人の巨大な国内市場があるのが有利に働く。

2015年設立のハイアルルートは東南アジア諸国で光ファイバーを展開するIT企業だ。フィリピン政府と同国のネット回線の核となる光ファイバー通信の設置で合意し、事業拡大が期待される。香港企業が20年に出資し、時価総額は35億ドル(4900億円)に達した。

モグリックスは産業機械などをオンラインで販売するBtoB(企業間取引)企業で、注力するインドでは最大規模のショッピングプラットフォームに育った。人工知能(AI)を活用して戦略立案を支援するパットスナップなどAI関連ユニコーンも増加した。ネット通販やフィンテックだけでなく、ユニコーンの業種の多様化が進む。

インドネシアでは「テクノロジー的な目新しさはないが、人口ボーナスなど国内需要により成長しやすい環境」(デロイトの浅間氏)が奏功する。

J&Tエクスプレスは15年に中国スマホ大手OPPO(オッポ)幹部が立ち上げた物流企業だ。新型コロナウイルス禍でのネット通販需要で急成長し、東南アジアに加え、中国にも進出する。旅行予約大手のトラベロカやフィンテックのアクラクもインドネシア市場を主戦場に成長を目指している。

(日本経済新聞)

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