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バイデン政策、前政権踏襲 貿易やグローバル化、対中政策を断ち切る 2023/08/11

米国のトランプ前大統領は自慢話ばかりする傲慢な人物かつ噓つきだ。そしてクーデターを企てた張本人である。この主張はどちらも事実だろう。

だがバイデン大統領が今、進める米国の外交・国内政策の歴史的な転換はそもそも前大統領が着手したものであるのも事実だ。こうした政策転換は前大統領が刑務所送りになったとしても変わることはなさそうだ。

真の意味で歴史に刻まれる大統領となる条件とは何か。それは突き詰めれば過去との過激ともいえる決別が必要ということだ。しかも、そうした政策転換をする根拠と、それによってもたらされる結果が、その後、政治的に対立する人々にも受け入れられることが必要だ。

例えば、ルーズベルト大統領はニューディール政策をもってそれを成し遂げた。ジョンソン大統領は公民権法を導入し、レーガン大統領は今はネオリベラリズム(新自由主義)と呼ばれる規制緩和と減税によりこれを成し遂げた。

レーガン氏以降の大統領は、同氏が掲げた自由市場主義をおおむね受け継いだ。クリントン氏は北米自由貿易協定(NAFTA)の発効を実現させ、第43代のブッシュ氏は中国の世界貿易機関(WTO)加盟を推進し、オバマ氏は米中投資協定の交渉と環太平洋経済連携協定(TPP)の合意を主導した。

ところがトランプ前大統領はそれまで40年間、コンセンサスだったグローバル化の推進を真っ向から拒絶した。大統領選期間中から中国は米国をバカにしており、搾取していると批判。就任演説ではグローバル化が米国からの製造業流出や都市部の退廃を招いたとして、これを「米国の大虐殺」と表現した。

就任式でこれを聞いていたブッシュ氏は「異様な演説だ」とつぶやいたとされる。

前大統領は大統領就任初日にTPPからの離脱を表明。2017年にはWTO裁定手続きの控訴審にあたる上級委員会の新たな上級委員の指名を拒否した。トランプ政権のライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、中国に関税を多数課し、前大統領はNAFTAを見直すべく再交渉し、新協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」を成立させた。このすべては米製造業の雇用を取り戻すことを大義名分としていた。

中国と対立するようになったのには地政学的要因もあった。トランプ政権が17年に発表した国家安全保障戦略は中国やロシアとの「大国間競争」をその中核に据えていた。

バイデン政権がこうした政策にどう対応したかといえば、巻き戻しを図るどころか大半を維持し、さらには強化を図った分野まである。TPPに復帰する意向は全く示さず、WTO上級委員の指名承認も拒否し続けている。同政権の高官には非公式な場では中国のWTO加盟を認めたのが間違いだったとする向きもあり、トランプ政権が課した対中関税も継続している。

バイデン政権は中国との大国間競争の概念も取り入れており、バイデン氏の国家安全保障戦略は中国を米国にとって「最も重大な」地政学的挑戦と位置づけている。

バイデン氏の政府の介入を強める経済政策「バイデノミクス」は、米国の産業と中間層の再建というまさに前大統領が掲げた目標を追っている。現政権は、バイデノミクスについてトランプ政権の政策よりも系統立って組み立てられているうえ、新たな要素も追加されていると主張するだろう。確かにそういう面はある。クリーンエネルギーの促進をはじめとする気候変動対策は、間違いなく民主党の政策といえる。

中国の台頭阻止を目指すバイデン氏の取り組みは、前大統領の時のように気分で左右されることもない。前大統領は中国を非難したかと思えば、その直後に習近平(シー・ジンピン)国家主席を褒めちぎるなどぶれが大きかった。関税は中国と進める交渉で米国にとって有利な果実を手に入れるための材料と位置づけていたようだが、新型コロナウイルス禍のために対中関係の改善に向けた計画は暗礁に乗り上げてしまった。

一方、バイデン政権はさほど対中貿易収支にこだわっていない。むしろ基幹技術の対中輸出を制限する取り組みを体系的に進めている。また、米国の産業再活性化のために前政権よりも多くの資金を投じているとも主張できるだろう。

しかし、これらは根本的な考え方の違いというより、ほぼ政策の実行の仕方の違いでしかない。バイデン政権は認めたがらないだろうが、貿易やグローバル化、中国との対立など様々な分野でトランプ政権の基本姿勢を継承するに至っているというのが現実だ。

背景には2つ要因がある。第1に16年の大統領選でのトランプ前大統領の勝利を受け、民主党は米労働者の置かれた厳しい状況や怒りをそれまで以上に深刻に捉えなければならなくなった。バイデン政権はグローバル化の推進をもはや米国民に訴える意味はなくなったという結論に至っている。

米国の利益を最優先し、既存政策の枠組みや国際的な合意を否定する「トランピズム」の台頭を許す経済状況に対処しなければ、民主主義そのものが危機に陥る恐れがあるとバイデン政権は考えた。そのため1990年代にクリントン氏が「ニューデモクラッツ(新しい民主党)」と称して追求し始めた自由貿易の推進など民主党の中道路線を手放すことをついに決めた。

第2にバイデン政権は、トランプ前大統領も指摘していたように、過去40年間の米国の対中政策は実質的に失敗だとみており、中国共産党率いる中国が国際社会で「責任ある利害関係国(ステークホルダー)」になることはないという結論に達している。

こうした点に鑑みれば、トランプ前大統領は米国の外交・国内政策の重要な分野で、この先も長く続くであろう大転換をもたらしたと言える。

政治思想や政策に重要な変化をもたらしたとして、前大統領の功績を認めるというのは奇妙に思えるどころか、嫌悪さえ感じるかもしれない。

米ワシントンで米政治に携わる多くの人にとって、前大統領は米国の民主主義を揺るがす大事件を起こした野蛮な人物だ。だが40年も続いた貿易やグローバル化、対中政策を断ち切るには、前大統領のようなタブー破りの野蛮人が必要だったということなのかもしれない。

FINANCIAL TIMES

(日本経済新聞)

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