金融、コンサル、外資系の転職・求人なら人材紹介【アスパイア】

無料転職支援・
相談のお申し込み

簡単登録
(入力1分)
信頼度NO.1の人材紹介エージェント
  • pic

    U.S. President Joe Biden

  • pic

    White House - Washington D.C. United States of America

国際政治経済最新情報

International Political Economy Updates

バーナンキ氏が残した「負債」 危機対応とバブルの連鎖 ノーベル賞 2022/10/11

元米連邦準備理事会(FRB)議長のバーナンキ氏はノーベル経済学賞の受賞を受けて記者会見した(10日、米ワシントン)

【ワシントン=高見浩輔】ノーベル賞が決まったバーナンキ元米連邦準備理事会(FRB)議長はリーマン危機後の金融システム維持に奔走した結果、世界に過剰なマネーという難題を生み出した。危機対応が次のバブルを生む負の連鎖をどこで断ち切れるのか、解は出ていない。低金利を背景に途上国などに広がった過剰な債務は、この仕組みが持続可能なのか問いを突きつけている。

大恐慌の研究家として、金融システムが実体経済を揺らす仕組みを分析したバーナンキ氏。2008年にはFRB議長として金融機関への公的資金注入などを実施した。「行動をためらえば痛みが増す」。金融システムの根幹をなす「信用」を維持する決意をリーマン危機後の記者会見で強く語った。

米国の資金供給量(マネタリーベース)はドルが基軸通貨としての地位を確立する前の1920年ごろから2007年まで1兆ドル未満で推移していた。バーナンキ氏が危機後の08~14年に3度にわたって打ち出した量的緩和(QE)は、これを一気に4兆ドルまで拡大させた。

過剰な資金供給は金利を押し下げ、マネーは利回りを求めてよりリスクの高い資産に向かう。バブルの芽を摘むには正常化が必要だ。だが研究者ではなくFRB議長という実務家としてバーナンキ氏が直面した「市場との対話」は困難を極めた。

13年に資産購入規模の縮小を示唆したが「テーパー・タントラム」と呼ばれる市場混乱を招き、計画は先送りを迫られた。FRBの総資産は元の規模に戻ることはなく、パウエル議長時代の20年には新型コロナウイルス禍への対応で約9兆ドルに倍増した。22年に始まった資産圧縮(QT)も数兆ドルにとどまる見通しだ。

リーマン危機後、国際金融当局は危機の芽を摘むため銀行規制を強化したが、バーナンキ氏や共同受賞したダイヤモンド氏は「銀行外」にリスクが潜むと指摘している。念頭にあるのは投資会社などノンバンクによるシャドーバンキング(影の銀行)の拡大だ。運用難の年金基金などが資金を振り向けており、英国では年金の取引が9月下旬の市場混乱に拍車をかけた。

米国外にたまったマグマも深刻だ。高金利を求めて新興国に広がったマネーが逆回転を始めているためだ。国際決済銀行(BIS)が集計した新興国のドル建て債務は21年末時点で4.2兆ドルと20年前の約5倍。米国の急速な利上げは返済負担の増加と資本流出を招き、債務危機に陥る途上国が増えている。

元インド準備銀行(中銀)総裁のラジャン・シカゴ大教授は今年に入って、市場に痛みを与えたくないというFRBの願望がフリーランチ(ただ飯)経済を生んだと批判した。

バーナンキ氏が注力したのは、引き締め時に混乱を招かないための透明性の確保だった。FRB内部で96年ごろから暗黙の了解となっていた2%の物価目標を12年になって明示したのも「バーナンキ氏の強い意向だった」(連銀総裁)とされる。だが実際には今回もFRBは利上げで出遅れ、批判を浴びた。

金融システムと実体経済の関係を解き明かす学術研究で功績を残したバーナンキ氏は、同時に実務家として多くの難題を残している。

(日本経済新聞)

ノーベル経済学賞、バーナンキ氏ら3人 金融危機の仕組み解明 2022/10/11

スウェーデン王立科学アカデミーは10日、2022年のノーベル経済学賞を元米連邦準備理事会(FRB)議長のベン・バーナンキ氏(68)ら3人に授与すると発表した。授賞理由は「金融危機における銀行の役割」。同氏は08年の金融危機時にFRB議長として対応に当たった。主要国中央銀行のトップを務めた人物が同賞を受けるのは極めて異例だ。

同氏と共同受賞したのは米シカゴ大学のダグラス・ダイヤモンド教授、米セントルイス・ワシントン大学のフィリップ・ディビッグ教授で、いずれも銀行破綻が経済に与える影響を定式化した。

バーナンキ氏の研究業績で最も評価を受けたのは、1930年代の世界恐慌の分析だ。当時の米国は失業率が25%まで上昇し、世界的にも前例のない不況が広がった。原因として考えられていたのは中央銀行による資金供給の不足だったが、バーナンキ氏はほかにも原因があると考え、統計や歴史資料を吟味した。

結果として判明したのは、銀行の破綻が恐慌を深刻化した点だ。銀行破綻が意識されると、人々は一斉に預金を引き出そうとする。銀行は預金引き出しに備えた資金を確保するために企業への貸し出しを渋る。すると経済全体に回るお金の量が少なくなり、不況が深刻化する。こうした金融を介した負のサイクルを理論として定式化した。

バーナンキ氏は米プリンストン大教授などを経て2006年から14年までFRB議長を務めた。08年9月、米金融大手リーマン・ブラザーズの破綻に始まった世界金融危機では、経営が不安視された他の大手金融機関に公的資金を投入する緊急対応策を主導した。

ダイヤモンド氏やディビッグ氏は、銀行への規制の必要を説いた業績が評価された。銀行は預金者が必要な時にお金を供給することが大切な役割だ。しかしひとたび銀行に取り付け騒ぎが起きると預金引き出しに対応できなくなり、危機を深刻化させる。ダイヤモンド氏らは、政府が銀行預金の一定額を保証する「預金保険」の重要性を唱え、実際に日本を含めた主要国が導入している。

金融危機に関わる研究では清滝信宏・米プリンストン大教授の評価も高い。王立科学アカデミーはバーナンキ氏らへの授賞理由を説明する文書の中で、清滝氏らが1997年に発表した論文も重要な関連業績として紹介した。

論文では銀行が企業に資金を貸し出す際の担保に注目し、土地や株式など担保価値が下落することが金融危機を深刻にする点を解明した。

(日本経済新聞)

バーナンキ氏らノーベル賞 金融危機へ備え迫る 経済学賞3氏、銀行の意義・もろさ解明 2022/10/12

2022年のノーベル経済学賞は元米連邦準備理事会(FRB)議長のベン・バーナンキ氏ら3人=写真はいずれもAP=への授与が決まった。金融危機時の銀行の役割を解明したことが理由だ。だが危機は今も形を変えて次々と世界を襲う。3人の業績と今も残る課題は、危機への不断の備えを各国当局に迫る。

バーナンキ氏は1980年代、30年代の世界恐慌研究の大家として名声を確立した。当時、経済史家の間には銀行破綻は不況の「結果」であって「原因」ではなかったという声も残るなか、銀行破綻と信用収縮が不況を深刻にし、長引かせたことを解明した。

バーナンキ氏の研究は単に世界恐慌を理解すること以上に、銀行や信用仲介の重要性を示すことになった。借り手の企業をよく知る銀行が倒れると、借り手企業に関する「知識」も失われ、復元するには時間がかかる。このことが不況を長引かせる原因にもなる。

バーナンキ氏はその後、FRB議長として危機対応策を矢継ぎ早に打ち、早期の経済回復に挑むことになる。

一方、米シカゴ大のダグラス・ダイヤモンド教授と、米セントルイス・ワシントン大のフィリップ・ディビッグ教授は、銀行は経済にとって欠かせない存在であると同時に、その重要性ゆえに脆弱性も抱えるというメカニズムを理論モデルとして構築した。

2人の名前を冠した「ダイヤモンド・ディビッグモデル」はその後、銀行システムのあり方を解明する銀行理論が発展していく礎を築く。

モデルの単純な姿はこうだ。銀行は一般の人々からすぐに現金にできる短期の預金を受け入れ、長い目で利益を生むような企業の設備投資などに対して長期間、貸し出す。

こうした銀行が仲介する「満期変換」と呼ぶ仕組みが、金融の最も効率的な姿であると同時に、不安定さも抱えることを理論づけた。

経営悪化の風評が立って預金者が我先にと預金引き出しに動いた場合、すぐに返済原資を用意できないといった「流動性ショック」を呼ぶからだ。恐怖が恐怖を呼ぶと、健全な銀行ですら破綻するリスクが出てくる。銀行が利益を生む前の長期の投資プロジェクトを途中でストップさせて資金回収に動くと、銀行にも損害が出るし、経済活動にも悪影響が及ぶ。

こうした研究成果も踏まえ、政府の預金保険や中央銀行の「最後の貸し手」機能の重要性が叫ばれた。両者のモデルは現代の銀行規制の理論的な基礎になったとの指摘もある。この点も受賞理由として評価された。

金融危機を巡る3人の研究成果とその後の発展があっても、危機自体が消えたわけではない。金融安定と危機回避は現在進行形の課題だ。政策当局者としてのバーナンキ氏には実際の金融危機を防げなかった点に批判も強い。ダイヤモンド・ディビッグモデルも一助となって築かれた堅固な銀行システムも、シャドーバンキング(影の銀行)など銀行の外にリスクをため込む結果になった面は否定できない。

現在、高インフレがFRBなどに急激な金融引き締めを迫る。ダイヤモンド氏は受賞決定後の記者会見で「ウクライナでの戦争などの不確実性があるなか、中銀の当局者たちは流動性の引き揚げに注意してあたるべきだ」と語った。各国当局の政策運営には、研究の蓄積や限界を意識した危機への備えが求められる。

(金融政策・市場エディター 大塚節雄)

(日本経済新聞)

menu