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プーチン氏が核で威嚇、キューバ危機以来の局面に 国防相「実行の準備整った」 2022/03/01

ロシア西部イワノボ州でICBMの訓練をする兵士ら(1月28日)=タス共同

ロシアのプーチン大統領は2月27日、ロシア軍で核戦力を運用する部隊に対し「任務遂行のための高度な警戒態勢に入る」よう命じた。ウクライナ侵攻が当初予想した形で推移していないことにいら立ちを深め、同国支援を続ける米欧に「展開次第では、核兵器使用も辞さない」との強烈な威嚇に動いた形だ。事態はにわかに歴史的な危機の局面に入り始めた。

ロシア軍は2月19日、核部隊によるミサイル発射演習を実施。24日にはプーチン氏が「ロシアは最強の核保有国の一つ」と強調するなど「核による威嚇」が相次いでいた。27日のプーチン氏の命令を受け、ショイグ国防相は翌28日、命令を実行に移す準備が整ったことを明らかにした。

「ロシアは有事の際に事態のエスカレートを止めることを目的にあえて核兵器使用というエスカレート手段をとるかもしれない」――。米欧の安全保障当局者や軍事専門家の間でこんな懸念が深まり、「エスカレート・トゥ・ディエスカレート」という英語表現を略した「E2DE」という言葉が広がり始めたのは2010年代だった。

米軍によって広島と長崎に投下されたのち、被害の甚大さゆえに核兵器の使用は事実上禁じ手とされてきた。その核をあえて突如使ってみせることで、北大西洋条約機構(NATO)軍などをパニック状態に追い込み、自らに有利な形で停戦にもっていく。そんな構想をロシアが持っているようだと米国防総省は18年版「核態勢見直し」報告書で指摘した。

ロシア自体も、こうした考えを20年公表の「ロシア連邦の核抑止政策の基礎」という公式文書でにじませた。同文書は総論部分で、核兵器保有の目的として主権や領土の一体性の維持に加え「紛争時の軍事活動のエスカレーション防止」という文言を明記。E2DE戦略を事実上認めた。

その上で、まだ敵の核ミサイルが着弾していない時点でも、発射されたことを示す確かな情報を確認できればロシア側から反撃の核を撃つことを認めるなど、同様の過去の文書にはなかった新規の使用基準を追加。「相手から攻撃があった」と虚偽の主張をする軍隊がこうした基準を付与されたことで、核先制使用の現実味は増した。

ただ、ロシア軍がE2DEを実行に移すことでもくろみ通りに停戦に持ち込める保証はない。既に米軍はロシア軍が戦場で小型核兵器を使えば、ただちに同様の手段で報復できるよう新型核の保有に向かい始めた。核攻撃の応酬に直結してしまう恐れが出てきたのだ。

こうした展開が目に見えているにもかかわらず、プーチン氏が危険な「核の脅し」に動く背景に、同氏の深い焦燥感があるのは明白だ。旧ソ連圏を部分的でも復活させることを宿願とする同氏が一世一代の侵攻作戦に踏み切ったにもかかわらず、米欧の支援を受けたウクライナ軍の奮戦で戦争目的を達成できていないことに加え、ロシアという国の歴史的評価を地に落とし、経済面でも大打撃を受ける「大失敗」が見え始めているのだ。

追い詰められたプーチン氏だからこそ、危険極まりないE2DE戦略を「局面打開の秘策」とみている可能性がある。起こりうるシナリオとしては、黒海に展開中のNATO海軍艦艇に対し「ロシア軍の核戦力を先制攻撃で無力化しようとしている」と言いがかりをつけて戦術核兵器で攻撃するという展開がある。非戦闘員の犠牲者を抑えられ、国際的な非難をかわせるとプーチン氏は考えるかもしれないのだ。

核戦争に突き進みかねない事態はキューバ危機など何度も訪れたがいずれも辛うじて回避できた。根底には、核のもたらす災厄に対する各国政治指導者たちの危惧が共通してあった。

今後万一、ロシアの核使用が現実になれば、中・長期的に「核使用の敷居」が一気に下がってしまい、核保有国が安易に小型核を武力紛争で使うようになってしまう懸念さえある。ウクライナでの戦争はもはや局地的な戦争ではなく、人類全体が深刻に危惧すべき事態になりつつある。

(編集委員 高坂哲郎)

(日本経済新聞)

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