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不遇の秀才、未完の改革 李前首相死去 「リコノミクス」、習氏と相反 2023/10/28

優秀すぎるがゆえに、改革をやり遂げられなかったのかもしれない。27日に68歳で亡くなった中国の李克強(リー・クォーチャン)前首相は、鄧小平が1978年に始めた改革開放の正統な継承者だった。その早すぎる死は、苦境にあえぐ今の中国経済とだぶってみえる。

忘れられない場面がある。2012年3月、北京の釣魚台迎賓館で開かれた経済フォーラムで、当時副首相だった李氏がスピーチに臨んだときだ。そばには国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事(現・欧州中央銀行=ECB総裁)がいた。

中国経済の現状を話し始めた李氏は突然、10秒近く沈黙した。「申し訳ない。今の数字は誤りでした」。いつもはメモを見ずに統計数字をよどみなく話す李氏が、外国の賓客を前に言い間違えをしたのだ。

重慶市のトップだった薄熙来氏が失脚した直後だった。5年に一度の共産党大会を目前に控え、党内の権力闘争が激しさを増していた時期である。その渦中にいたであろう李氏は、最高指導部の人事をめぐるすさまじい抗争を目の当たりにし、疲れていたにちがいない。

そうした権力闘争とは無縁の人生を送るつもりだったはずだ。屈指の名門である北京大学を最優秀の成績で卒業し、海外への留学を夢見ていたとされる。

しかし、中国共産党の下ですぐれた人間は自由を許されない。李氏は党の青年組織である共産主義青年団(共青団)の幹部候補生になり、枢要なポストを歩んだ。のちに国家主席になる胡錦濤(フー・ジンタオ)氏の下でも働き、その後継者と目されるようになる。

李氏が北京大で学んでいたときの恩師に厲以寧氏がいる。改革開放の理論的な支柱の一人で、「計画経済を捨て去るべきだ」と訴え続けた経済学界の重鎮だ。

13年3月に首相となった李氏は、恩師の教えを忠実に守ろうとした。「市場メカニズムには経済活動を自動調節する機能がある」。ことあるごとにそう説き、中国経済のさらなる市場化をめざす政策を掲げた。「リコノミクス」である。

資源の配分を市場に任せ、国有企業より民営企業の活力を引き出して経済の生産性を高める。そんな発展戦略は、党の指導を絶対視する習近平(シー・ジンピン)国家主席の考えと相いれなかったのだろう。李氏は次第に遠ざけられ経済政策の主導権を失っていった。

李氏にすれば、精いっぱいの抵抗だったのだろうか。20年5月の全国人民代表大会(全人代)後の会見で「中国には月収千元(約2万円)前後の人が6億人いる。中規模の都市では家さえ借りられない」と発言して物議を醸した。

そこそこゆとりのある「小康社会」の実現は間近としてきた習氏を、否定したように聞こえたからだ。この発言で、李氏の党内における立場がいっそう悪くなったのは想像に難くない。

21年3月の全人代で政府活動報告に臨んだ李氏は、どこか痛々しかった。声がかすれ、コップの水を何度も口にした。

災害現場にはいつも真っ先に駆けつけ、ふつうの人びとから親しまれる誠実な指導者だった。李氏がもう少し権力闘争を勝ち抜くずるさがあり、リコノミクスをやり抜いていれば、中国の未来はまったく違っていたと思う。

(編集委員 高橋哲史)

(日本経済新聞)

中国経済、しぼむ「改革派」 李前首相死去 政府締め付け、企業萎縮 2023/10/28

【北京=川手伊織】経済に明るかった中国の李克強(リー・クォーチャン)前首相の死去は、共産党内で市場機能を重視する「改革派」の退潮を改めて印象づけた。政府はネット業界など経済への締め付けを強め、家計や企業の将来への不安を大きくさせた。中国経済は今後の安定に課題を残す。

「市場化に向けた改革の方向性を堅持する」。李氏は2013年3月の首相就任後初の記者会見でこう強調した。高度経済成長から安定型経済に発展させるため、自動車市場の開放など構造改革を推進してきた。

李氏が仕切った国務院(政府)には改革派官僚がいた。朱鎔基元首相に連なる楼継偉元財政相や中国人民銀行(中央銀行)の周小川元総裁、中国銀行保険監督管理委員会のトップを務めた郭樹清氏らだ。彼らも政策運営の第一線を退いた。

改革派の存在感が薄れるなか、習近平(シー・ジンピン)指導部は経済への締め付けを強めてきた。独占禁止法の改正などでアリババ集団といった巨大ネット企業を統制。少子化で高まった教育熱を取り込んで成長した学習塾業界にも多くの規制を導入した。

ネット大手による中小企業たたきや教育費の高騰をうけ、格差を是正する狙いがあった。ただ行き過ぎた統制で業界の成長力は弱まり雇用の受け皿としての力がなくなった。リストラが増え若者の就職難を悪化させた。

習指導部は腐敗撲滅を目的に金融業にも目を光らせる。ニッセイ基礎研究所の三浦祐介主任研究員は「民間企業や家計は、統制がいつ強まるかという政策面の不透明感を拭えず、萎縮している」と指摘する。

政府が統制を強めても、経済に横たわる構造問題は解決の糸口が見えない。その1つが地方経済をけん引してきた不動産市場の問題だ。調整局面に入ってから2年たったが、新築販売や新規開発はなお減少している。

土地が国有の中国では、地方政府が土地の使用権を不動産開発企業に売りさばいてきた。このため不動産不況は地方財政にも大きな打撃を与えた。使用権の売却収入も落ち込みに歯止めがかからず、抱え込んだ過剰債務の返済に窮する地域は少なくない。

急速な少子高齢化も大きな課題だ。22年には総人口が減少に転じたが、働き手を確保するための法定退職年齢の引き上げといった改革は、市民の反発が根強く、道半ばだ。

構造問題への対応の遅れが民間企業や家計の将来不安をさらに強め、中長期的な経済成長の足かせとなりかねない。国際通貨基金(IMF)が10月にまとめた最新の予測では、中国の実質経済成長率は23年の5.0%から24年には4.2%へと下がり、27年以降は3%台に落ち込む。

経済成長の鈍化は格差是正の障害になる。「ゼロコロナ」政策で3%成長にとどまった22年、所得格差は広がった。都市部の世帯では1人当たり可処分所得の上位20%と下位20%の平均値の差が6.3倍と、確認できる1985年以降で最大となった。

李氏は20年5月に「月収1000元の人がまだ6億人いる」と語った。当時のレートで約1万5000円だ。格差が社会不安を高めれば、共産党政権に批判の矛先が向かう可能性もある。

習指導部は分配を重視する「共同富裕(共に豊かになる)」を政治スローガンに掲げる。働き手の取り分を示す労働分配率の上昇や、税や社会保障を通じた再分配の強化で、中低所得層の収入底上げを狙う。

その過程で、強権的な政策をとれば肝心の経済成長が犠牲となりかねない。民間企業や家計を圧迫せずに市場機能を重視した改革こそが不可欠になる。

(日本経済新聞)

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