金融、コンサル、外資系の転職・求人なら人材紹介【アスパイア】

無料転職支援・
相談のお申し込み

簡単登録
(入力1分)
信頼度NO.1の人材紹介エージェント
  • pic

    Jeff Bezos, president and CEO of Amazon

  • pic

    Former CEO of General Electric, Jack Welch

企業経営最新情報

Latest information on corporate management

会計監査、担い手不足の瀬戸際 増える形式手続き、やりがい薄く離職増加 2023/07/24

財務諸表をチェックする会計監査の担い手不足が深刻になっている。監査法人で働く公認会計士の比率は10年で10ポイント下がった。上場企業数や監査業務量が増え続けるなか、やりがいに乏しい形式的な作業に失望し、スタートアップやコンサルティング企業に転身する動きが目立つ。資本市場の門番役を担う監査制度に、空洞化の危機が迫っている。

「お世話になりました」。監査法人の年度末から初めにあたる6月から7月、大手法人幹部のメールボックスには所属会計士から届く離職のあいさつが引きも切らない。「採用するのと同じ規模の人数がやめてしまう」と頭を抱える。

監査法人所属は41% 「カンキホウ」不満

会計士登録者は2023年3月末時点で3万4436人と10年前から38%増えているが、監査法人所属の会計士は1万3980人と7%しか増えていない。10年前に51%だった監査法人所属者比率は41%まで低下した。

会計士は歴史的に流動性の高い職種だ。監査法人内でパートナーと呼ばれる役職者になれるのは同期の1割ほどで、経験を重ねつつ徐々に責任が重くなるピラミッド構造にある。入所10年程度で昇格するマネジャー職まで経験を積み、別の道を歩むのが典型だった。

だが、近年は離職する会計士が若手スタッフからパートナーまで全職階に広がった。「マネジャーまで頑張ろうと思っていたが、1年働くごとに気持ちが変わっていった」。21年8月に監査法人を去った20代会計士は吐露する。

なぜか。まず、「本当に意味があるのかと思う部分まで、全てをしゃくし定規に記録に残す」(30代会計士)監査業務への失望が挙げられる。監査法人を退職した会計士約10人への取材で多く聞かれたのが、日本公認会計士協会が監査でやるべき手続きを定めた「監査基準委員会報告書」、通称「カンキホウ」への不満だ。元監査法人所属の40代独立会計士は「(報告書では)形式的で膨大な作業が積み上がっている」と明かす。

東芝や英カリリオン、独ワイヤーカードなど、世界的に大きな会計不正は絶えず、発覚の度に監査法人に批判の矛先が向いた。国際的な監査基準の要求事項は上乗せされ、監査法人も所属会計士に、規制当局から責められないように実施手続きを監査調書に細かく記録するよう求めたことも形式化に一段と拍車をかけている。

前出の20代会計士は「労働時間の概念を取っ払って大量のチェック項目をつぶすことが生きがいなのか、自問した」と話す。監査法人トーマツパートナーを経て早稲田大学会計大学院で教える林敬子教授は「(若い会計士に)回り道したくないという意識が強まっている」と指摘する。成長に寄与しない業務を避ける構図が、監査法人離れの背景にある。

全体の業務が増える一方、近年は若手スタッフの残業時間上限が管理されるため、上司であるマネジャーやシニアスタッフらが「残務を巻き取っていた」(22年に大手法人を退職した30代会計士)。若手の離脱や働き方改革のしわ寄せが上の階層に波及し、監査現場全体の疲弊が進んでいる。

企業の引く手多く 空洞化防ぐ議論を

監査法人以外の「活躍のフィールドが広がっている」(日本公認会計士協会の鶴田光夫副会長)ことも要因だ。企業では経理や内部監査など引く手あまただ。スタートアップでは若くして最高財務責任者(CFO)も珍しくない。

かつては高収入の代表格だった監査法人だが、一般企業の待遇面は遜色なくなっている。監査法人入所後、数年で昇格するシニアスタッフの年収が最低でも600万円程度、10年前後でなれるマネジャーは800万~1000万円程度とされる。他方、会計系の転職エージェントでは内部監査や経理で700万円程度、戦略コンサルだと900万円強が提示される。

監査法人に会計士をつなぎ留めるには、賃上げやデジタルを活用した業務効率化が必要だ。原資となる顧客から受け取る監査報酬の引き上げが欠かせないが、時間単価はここ10年ほど1万2000円弱と一向に伸びない。日本の上場企業は過去最高水準まで増えているにもかかわらず、顧客企業に危機感が伝わっていない。EY新日本監査法人の片倉正美理事長は「値上げを納得してもらうには、単に監査意見を出すだけでなく付加価値のある知見を提供する必要がある」と語る。

監査の空洞化で情報の信頼性が欠如すれば市場は効率的に機能しない。会計関係者は「中小企業と大企業で同じ情報開示が必要かなど、資本市場システムの全体像を議論すべきだ」と強調する。会計士の監査法人離れは監査制度の土台を揺るがしかねず、すでに崩壊の瀬戸際にあるのかもしれない。

(日本経済新聞)

menu