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坂の上の罠 狙うは台湾、習氏の焦燥 対岸うかがう「強国」の橋 迫る下り坂、爪隠せず 大中国の時代 2022/01/24

誰も見たことのない「強大国」中国が現れた。独善、そして威圧的な行動から透けるのは、自信だけではない。急成長から一転し、衰退へと向かう新興大国が陥る「坂の上の罠(わな)」――。その矛盾が各所で噴き出しつつある。急転する中国と世界を追う。(関連記事国際面、大中国の時代特集面に)

「おい見ろ、ここだ。この橋が台湾まで延びる。車で1時間半で台北に行けるようになるぞ」

中国南部、福建省福州市。タクシー運転手の呉峰さん(57)はそう言って海沿いに車を止めると、巨大な橋を指さした。全長16キロメートル。台湾海峡(3面きょうのことば)に浮かぶ小さな平潭(ピンタン)島まで突き出るように架かる。2020年12月に完成したが、それで終わりではなかった。

了承なき延伸
21年3月の全国人民代表大会。中国政府は橋をさらに台湾本島にまで延伸させる建設計画案を可決した。無論、台湾側は了承などしていない。

完成は13年後の「2035年」だ。海峡の下に海底トンネルを掘り、台北まで結ぶ代替案も用意した。その2週間後だ。「中台融合のため、大きな一歩を踏み出すべきだ」。習近平(シー・ジンピン)国家主席が自ら福建入りし、地元幹部らに大号令をかけた。

「強国有我(強国に我あり)」。習氏が異例の3期目入りを狙う中国でいま、自らの国力を誇示するネット用語が流行する。鄧小平氏以来の爪を隠して力を蓄える「韜光養晦(とうこうようかい)」戦略は過去のものとなり、かつてない強硬路線がむき出しになる。

台湾海峡が「世界一危険」と呼ばれるようになったのも、中国内で広がる「偉大な復興」への自信と熱狂が大きい。米軍は習氏の3期目が終わる27年までに、中国が武力侵攻に動くとみる。

だが現実の「大中国」はもっとしたたかだ。

中国の領有権が認められていない南シナ海で7つの人工島を造り、軍事拠点化を進めていた18年10月。習氏はその海域をのぞむ中国南部にいた。

香港、広東省珠海市、マカオを結ぶ世界最長級の「港珠澳大橋」開通式典。地域を一体化する全長55キロの海上橋と海底トンネルを9年余りで完成させ、習氏は「国力だ」と誇った。わずか1年半後。香港国家安全維持法が成立、香港は中国の強権下にあっさり落ちた。

まず造る。既成事実化する。あとは押し切る。リアルな軍事力ではない。戦わずして勝つための作戦が静かに進む。

次は台湾だ。

「環太平洋経済連携協定(TPP)加盟申請に向け、台湾が各国と進めていたやり取りが漏れた可能性がある」

台湾当局から多くの仕事を請け負うサイバーセキュリティー大手、TEAMT5の蔡松廷・最高経営責任者(CEO)は明かす。21年9月、中国は台湾より1週間早いタイミングでTPPへの加盟を申請し、台湾当局を出し抜いた。単なる偶然とみる者は少ない。

さらに21年10月4日、過去最多となる中国軍56機が台湾の防空識別圏に侵入した同時間帯。台湾中枢部にサイバー攻撃が襲いかかっていた。

台湾軍、外交部(外務省)、与党・民主進歩党(民進党)と、主要機関が狙われた。偽のログイン画面を大量送付し、機密を抜き取った。「21年に当局が受けた攻撃の9割は中国からだった」。蔡氏は分析する。

台湾の21年版国防報告書も、強調したのは武力に頼らない統一作戦への脅威だった。19年から21年8月までに14億回を超えるサイバー攻撃があったと断定。偽ニュースなどの世論工作とあわせ、台湾社会が揺さぶられる実態を列挙した。

中国が統一を譲ることはない。むしろその執拗さは今後さらに増す可能性が高い。「中国はピークパワーの罠に陥りつつある」。米タフツ大学のマイケル・ベックリー准教授は台湾、そして世界が直面する新たなリスクを指摘する。

新興大国が経済の急減速に苦しむと、対外的に強引、高圧的になる状態を指す。ベックリー氏は第1次大戦前のドイツ帝国、戦前の日本を例に挙げ、こう警告する。「台頭する大国は歴史上、衰退期を迎えると、目標を達成しなければという焦りから攻撃的になる」

総統選に照準
これまで成長の足取りが速かった分、坂の上の先への恐怖も増す。世界最大の経済大国の座を目前にする中国だが、不動産バブルや少子高齢化で限界も見える。だからこそ着実な詰め手を急ぐ。

台湾も狙いは米軍が警戒する27年ではない。反目する蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の任期が切れる24年だ。「次期総統選に向けて親中派の国民党を支え、新政権と統一へ事を仕掛けていく」。中台の外交専門家らの一致した見方だ。

いまの台湾なら、ミサイルや爆撃機を使わずともねじ伏せられる。中国はそう踏む。橋の建設へ、平潭島では地質調査と測量工事が動き始めた。

「中国の民主化はもう期待できない」。ソ連崩壊や米トランプ政権の誕生を予見した仏歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏は憂う。「世界は中国と共通の課題で対話するか、米中対立の渦に巻き込まれるかの選択を迫られる」。国も企業も、そして個人も「大中国」とは無縁でいられない。危うさと背中あわせの新時代が始まった。

(日本経済新聞)

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