金融、コンサル、外資系の転職・求人なら人材紹介【アスパイア】

無料転職支援・
相談のお申し込み

簡単登録
(入力1分)
信頼度NO.1の人材紹介エージェント
  • pic

    Bank of America Tower entrance in Charlotte, North Carolina, USA

  • pic

    Jamie Dimon, Chairman and CEO of JPMorgan Chase & Co.

金融&M&A業界最新情報

Financial & M&A Industry Updates

官から民へ一時停止14年 「ぬえ」の政投銀、再考のとき 2022/05/19

新型コロナウイルスがまん延して3回目の春が過ぎる。連休中の各地のにぎわいは災いが出口にさしかかったと思わせた。
だが、コロナの傷は今も癒えない。新千歳など北海道の7空港を束ねる北海道エアポート(千歳市)を取材し、改めて感じた。
同社が事業を始めたのは「中国で原因不明の肺炎」と伝わった2020年1月。以来、空港は閑散とし、経営は赤字にまみれた。
「あまりに理不尽だ」。蒲生猛社長が憤るのは開業とコロナ禍がぶつかった不運だけでない。
所有権を国や自治体に残し、運営を民間に委ねるコンセッションで生まれた北海道エアポート。ウィンウィンのはずの官民連携がその弱点をさらした。
行政にとって、契約に基づき運営権を売った会社がピンチに陥っても基本的には「民の話」だ。一方、株主に名を連ねた企業には官頼みの空気が漂う。

双方の責任の押しつけ合いが苦境を深め、蒲生氏ははがゆい思いをした。本質的に発想の違う官と民のコラボは大事だが、一歩間違えば半端になりかねない。重い教訓を残した。
そんな北海道エアポートに3月末、救いの手を差し伸べたのは政府系の日本政策投資銀行だった。
返済順位が低く、資本に近い性質をもつ劣後ローン枠を90億円確保し、北海道エアポートは一息ついた。90億円のほとんどを政投銀が担ったそうだ。関係省庁や企業が胸をなで下ろした様子が目に浮かぶ。
なぜ政投銀は焦げ付きリスクをとって劣後ローンを引き受けたのか。
政投銀は政府が全額出資する政府系機関であり、官の顔をもつ。ただ、政府系だから劣後ローンを担い、官民プロジェクトのピンチを救ったというほど単純な話ではないらしい。
かつての特殊法人から08年に株式会社へ衣替えし、掲げた目標は政府出資ゼロの完全民営化だった。民間企業としてやっていくには投資など新しい分野を切り開き、収益力を磨く必要があると訴えてきた。

政投銀を率いる財務省出身の木下康司会長(左)と生え抜きの渡辺一社長

北海道エアポートとの取引もそのストーリーから外れていない。「地域への配慮もあるが、投資を回収できる見込みがあるからこそ劣後ローンを出した」とある幹部は打ち明ける。
ほかの銀行が腰を引く案件を独特のロジックで受け止め、一定のリスクを覚悟する。ちょっとわかりにくいが、ユニークな資本主義の形がここにある。
もっとも、救済の求めは1つや2つでない。コロナ禍で打撃を受けた企業を支援する融資は4月末までで494件、総額は2兆4990億円に達した。
1年前には政府の意向を背景に、民間の常識を覆す条件で飲食・宿泊業者に資本を届ける異例の策を始めた。20世紀の日本開発銀行の時代に逆戻りしたかのような手法だった。
政投銀の姿は業界で「鵺(ぬえ)」と称される。頭は猿だが体はタヌキ、尻尾はヘビで手足は虎という妖怪だ。官から民への変化を止め、場面によって官のようにも民のようにも振る舞うさまが、奇異な妖怪になぞらえられる。
もともと矛盾めいた存在とみられた政投銀が官の色彩を強めたこの2年。それでもなお、政府から離れていくストーリーは整合的なのかどうか。民営化をうたいつつ一時停止を余儀なくされた14年の歳月を経て、同じ目標を掲げ続ける違和感は増している。
視点を変えると、利益至上主義を修正する世界の新潮流と政府系の哲学は重なり合う。「新しい資本主義」を看板に据えるなら、政府系の将来像の再考は避けて通れない。鵺の矛盾をいかに解くかはポストコロナに向けた宿題だ。

(日本経済新聞)

menu