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International Political Economy Updates

最高裁の中絶判決、米企業を動かす シティ、従業員に旅費/ウーバー、訴訟費用負担 2022/06/29

【ニューヨーク=堀田隆文】米連邦最高裁が人工妊娠中絶の合憲性を否定する判断を示し、外資を含めた企業に新たなリスクが浮上してきた。今後は全米の各州がそれぞれ中絶を認めるか、制限するかを決める。一部の企業は手術を受ける従業員への支援策を打ち出したが、制限派の州がこれに対し、訴訟を起こす可能性も浮上してきた。中絶を巡る問題は企業の投資戦略も左右しそうだ。

性と生殖に関する健康・権利を研究する米ガットマッハー研究所は、最高裁が中絶の合憲性を否定すれば、13州が中絶の制限・禁止にすぐに動くと予測してきた。

最高裁が24日に判断を下すと、さっそくケンタッキー州やサウスダコタ州で中絶を制限する州法が発効した。これらの州では、最高裁が合憲性を否定すれば、自動的に発効する「トリガー法」がすでに成立していたからだ。テキサス州やテネシー州などでも近く制限・禁止法が施行される見通しだ。

サウスダコタ州のノーム知事は26日の米テレビ番組で、中絶薬の処方など遠隔医療行為も禁止していく方針を示した。

禁止・制限派の州では最高裁の判断を実行に移す具体的な動きが加速している。全米の半数の州に及ぶ可能性がある。

一方、中絶容認の州は最高裁の判断に抵抗する構えだ。ガットマッハー研によると明確に容認するのは16州と首都ワシントンDC。カリフォルニア州やオレゴン州などは24日の共同声明で「最高裁は憲法による生殖の自由の保護を取り消した」と非難し、中絶の権利を守る姿勢を鮮明にした。

一部の大手企業は従業員への支援を打ち出した。米ウォルト・ディズニーは最高裁の判断後の24日、中絶を禁止・制限する州から他州に手術を受けに行く際の旅費を負担すると従業員に伝えた。

銀行大手のシティグループやJPモルガン・チェース、ジーンズ製造のリーバイ・ストラウスはすでに同様の支援を決めていた。中絶問題は人々の生活に直結するだけに、従業員に対し自社の施策を説明することは、企業の差し迫った課題だ。

こうした施策は州から訴えられるかもしれない。「(最高裁の判断によって)中絶は犯罪になる。シティバンクの職員は中絶費用を支払う前に法律を確認すべきだ」。中絶反対派が支持基盤の共和党が優勢で、中絶制限法が施行する見通しのテキサス州では、共和党議員がこう表明した。

企業は、従業員がどの州に住んでいても、平等に働き生活できる仕組みを維持しなければならない。だが、そのための仕組みが法的リスクに直面すれば、企業は手足を縛られかねない。一部の米報道によると、メタ(旧フェイスブック)は従業員に対し、中絶問題について社内で公然と議論しないよう要請した。

中絶を巡る各州の動きには不透明な部分も残る。ルイジアナ州では24日に制限法が発動したが、27日に効力が止まった。同州裁判所が制限法の一時差し止めを認めたからだ。中絶を巡っては同じ州の中でも意見の対立が残る。こうした先行きの読みにくさも企業の対応を難しくする要素になりそうだ。

バイデン米政権はサプライチェーン(供給網)の国内回帰を進める。呼応する米企業は海外拠点の国内への移転を目指すが、中絶問題はどの州に拠点を構えるかという計画に影響する。米国に進出する外資も同様だ。

例えば、テキサス州は税負担の軽さを強調して電気自動車(EV)大手テスラの本社誘致などに成功してきた。だが、テキサス州が実際に中絶を制限すれば、同州への投資を避ける企業が現れるとも想定できる。

(日本経済新聞)

米最高裁、中絶の権利認めず 49年前の判断覆す 2022/06/24

【ワシントン=芦塚智子】米連邦最高裁は24日、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェード判決」を覆す判断を下した。中絶の権利に対する憲法の保障がなくなり、全米の半数以上の州が中絶の禁止や厳しい制限に動く見通しだ。バイデン大統領はホワイトハウスで演説し「最高裁は米国民の憲法上の権利を奪った」と批判した。

11月の中間選挙に向け、中絶の権利擁護を求めるリベラル派と反対する保守派の対立が激しくなり、米社会の分断がいっそう進む公算が大きい。

50州中26州で禁止・制限も
判決文は「憲法は中絶の権利を与えていない」と明言。ロー対ウェード判決は無効とし、中絶を規制する権限は「国民と国民に選ばれた代表に戻す」とした。州が中絶を規制することを認めた。

判断は、妊娠15週より後の中絶を原則禁じる南部ミシシッピ州の法律の合憲性を巡る訴訟に対するもの。保守派判事5人が支持、リベラル派判事3人が反対し、ロバーツ長官は判断を容認する立場を示した。最高裁はトランプ前大統領が保守派判事3人を指名したことで、保守派6人、リベラル派3人と、勢力が保守に大きく傾いている。

73年の判決は一般的に妊娠23週前後とされる胎児が子宮外で成育可能になるまでの中絶を認めており、下級審はこれを基に同州法の施行差し止めを命令。同州が最高裁に上訴し、州法の容認だけでなく73年判決自体の見直しも求めていた。

米グートメーカー研究所によると、判断を受けて全米50州の26州で中絶が事実上禁止または大幅に制限される見込みで、その多くは保守地盤の州だ。

例えば南部ルイジアナ州では21日、中絶を実施した者に最高で禁錮10年、罰金10万ドル(約1350万円)を科し、性的暴行や近親相姦(そうかん)による妊娠にも例外を認めない中絶規制強化法が成立した。最高裁の判断と同時に発効する。一方で民主党地盤の州は中絶への保険適用を拡大するなど中絶の権利保護を強化している。

最高裁の草稿、異例のリーク
最高裁の判断を巡っては、5月に多数派意見の草稿がリークされ、女性の「選択の自由」が奪われるとして 権利擁護派が抗議デモを展開していた。抗議活動が激化するのは必至だ。

バイデン氏は24日の演説で、多数派の保守派判事による判断について「最高裁の極端なイデオロギーと悲惨な誤りの表れ」と非難。議会が中絶の権利を守る連邦法案を可決する必要性を訴え、中間選挙で中絶の権利擁護派に投票するよう有権者に呼び掛けた。

またバイデン氏は、保守派のトーマス判事が判断を支持する意見の中で、同性婚を憲法上の権利と認めた2015年の判断や避妊の権利に関する判断も見直すべきだと主張したことに言及。リベラル派の危機感をあおった。

民主党のペロシ下院議長は同日、記者団に対し、下院がすでに中絶の権利を保護する法案を可決していることを指摘し「法を成立させるためには(民主党が)多数派を獲得しなくてはならないのは明白だ」と強調した。

トランプ氏「最大の勝利」
トランプ氏は声明で「今日の判断は生命のための最大の勝利」と評価し、保守派判事3人の指名など自分が公約を実現したからこそ可能になったとアピールした。

ニューヨーク州のホークル知事は24日、最高裁判断を受けて声明を発表し、「何百万人もの米国人が自分の体について決める権利を奪った」と非難した。ニューヨークでは中絶が合法である旨を強調した。

ニューヨーク市のアダムス市長も声明で「基本的人権に対する冒涜(ぼうとく)だ」と非難した。「女性らを、生殖に関して束縛するものとしか言い様がない」と糾弾。「最高裁の判断は、大多数の米国人の意見を無視し、州政府が女性の体や選択、自由を制限するのを支援するものだ」とも加えた。

一方、テキサス州のアボット知事は「テキサスは生命を尊重する州だ」と最高裁の判断を歓迎するコメントを公表した。保守層が多い同州では2021年成立の州法に従い、最高裁判決から30日後に中絶が禁止となる見通し。中絶を実施した医師は終身刑となる可能性もある。

(日本経済新聞)

(社説)米中絶判決で深まる分断懸念 2022/06/28

米国の連邦最高裁が人工妊娠中絶の禁止を認める判決を下した。今後は各州の判断に是非が委ねられ、中絶容認派は女性の尊厳や健康を脅かすとして激しく反発している。社会の分断がさらに深まりかねず、憂慮される事態だ。

妊娠中絶は銃規制などとともに米国内で長く国論を二分してきた問題だ。今回の判決は、中絶を憲法が保障する権利と認めた従来の判例を半世紀ぶりに覆した。米研究機関によると、全米50州の半数程度が中絶の禁止・制限措置を講じる見込みという。

米国では民主、共和両党の政治的対立が激しさを増し、国民の間でも格差の拡大などに伴った分断が大きな問題となってきた。民主主義のリーダーである米国の社会に動揺が広がる事態には懸念を抱かざるを得ない。宗教的価値観も絡む難題だが、意見の違いを乗り越える冷静な対話を望みたい。

最高裁の判事は大統領が指名し上院で承認を得る。政権が民主党ならリベラル派、共和党なら保守派を指名することが多いが、穏健な考えの候補は超党派で承認し、判事も立場にとらわれず柔軟な判断を示すことがあった。

近年は党派性が一段と強まっている。トランプ前大統領が3人の保守派を指名し、いまは長官を含め保守派が6人となり、リベラル派は3人にとどまる。今後も保守的な判断が続く可能性が高い。

バイデン大統領は中絶の権利維持へ連邦法の制定を主張する。11月の議会中間選挙で大きな争点になるのは確実だ。分断を助長することのないよう、両党には良識ある論戦を期待したい。

銃規制をめぐっても、最高裁は公共の場での拳銃携行を制限するニューヨーク州法の規定を違憲と断じた。一方で、連邦議会では28年ぶりに銃規制を強める法律が共和党の一部も賛成して成立した。

抜本的な規制強化からはほど遠い内容だが、前進には違いない。社会の隅々に及ぶ対立を解きほぐすため、小さな一歩を積み重ねていってほしい。

(日本経済新聞)

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