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米ウォール街の大物が続々と瀬踏みの来日 2023/04/11

3月31日の各紙朝刊に載った「岸田首相の動静」は市場で話題になった。米大手運用会社ブラックストーンの最高経営責任者(CEO)、スティーブン・シュワルツマン氏が首相を訪ねていた。企業や不動産を軸に1兆ドル弱(約130兆円)の運用資産を誇る同社は2年前、日本でも8ホテルの一括買収で注目を浴びた。投資機会がもっとあると見ての来日だ。

同じ日、最大のライバルも日本にいた。米コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)を創業したヘンリー・クラビス氏だ。40年以上前に買収ファンドを事業化した伝説の人物。日本の投資先企業と交流し、このほど買収したロジスティード(旧日立物流)を巡って協議した日立製作所も訪ねた。

株式市場を沸かせるニュースが流れたのも同じ頃だ。ヘッジファンドの巨人、ケン・グリフィン氏率いる米シタデルが、15年ぶりに日本で拠点を開くという。

外国人投資家の日本を見る目は冷め切っていた。2012年11月に「アベノミクス相場」が、翌年4月に日銀の「異次元緩和」が始まり、12年以来の日本株の買越額は15年に20兆円を超えた。ところがブーム一巡後は売却が続き、買越額をほぼ失った。

シュワルツマン、クラビス、グリフィンの3氏は、ウォール街の誰もが話を聞きたい投資家だ。日本への視線は、地盤沈下の国が巻き返すシグナルともいえる。

マクロ環境には3つの追い風が吹く。第一は地政学。ロシアのウクライナ侵攻、米中対立、台湾や北朝鮮を巡る緊張は、マネーの関心を新興国から先進国に変えた。

米コンサルティング会社A・T・カーニーは毎年、世界の大企業幹部に対外直接投資の希望先を聞いている。グローバル化や新興国ブームの全盛期だった12年は、中国やインドが人気だった。

世界が平和から分断に変わり、関心はカントリーリスクの低い国に変わった。21位に沈んでいた日本も今年は3位へと大きく浮上。台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場建設は代表例だ。

第二は金融。利上げが続く米欧では、資金繰りに窮した企業が事業を安く売る。強気の入札で買収価格を引き上げてきた米ファンドも、資金コストが高まった分、採算が悪化し、買いを手控えている。

対して9日に就任した植田和男・日銀総裁は金融緩和を続ける見込みだ。日本企業は資金が調達しやすく、割安に海外企業を買収して成長することができる。

第三は政策。2000兆円の個人金融資産を投資に導く岸田政権の政策は、研究開発や設備への投資という企業の成長戦略を支えるリスクマネーを株式市場に流す。

ところが、成長の担い手である日本企業が心もとない。「勇気を出すべきだ」。米投資銀行リンカーン・インターナショナルのジム・ローソン会長は、先月の日本企業訪問でチアリーダーのように振る舞った。金融環境が有利なのに、逆境の米ファンドと同じように買収を尻込みして成長の糸口をつかめない経営者が目立った。

様子見の余裕などないはずだ。株式市場に「価値破壊」と呼ぶ概念がある。現在の企業価値である純資産額を、将来の企業価値を映す株式時価総額が下回る状態だ。「今の経営が続けば企業価値が損なわれる」と成長性の低さを疑う投資家の警告を示す。東京証券取引所が先月、対象企業に改善策を求めたPBR(株価純資産倍率)の1倍割れはこうして起きる。

注目すべきは「破壊額」が大きい世界の500社を国別に見た結果だ。首位は中国・香港の上場企業。2400億ドルもの価値破壊を疑われる中国工商銀行を筆頭に、129社を占める。共産党や政府の評価を重んじる企業が多く、市場の警告に耳を傾けないのだ。

だが、2番手が95社の日本というのはどうか。8位に破壊額約700億ドルの日本郵政、11位に500億ドル強の三菱UFJフィナンシャル・グループ、17位に約450億ドルのホンダがいる。上位500に入る企業は、15年の58社からほぼ一方的に増えた。日本企業の「中国化」とみられても仕方ない。

追い風を生かせない企業には、当の日本人がしびれを切らしている。株に投資する国内投資信託への資金流入は21年以降、外国株向けが日本株向けを大きく上回る。QUICK資産運用研究所によると、追加型投信で過去1年間に資金を集めた上位20本はすべて外国株向けだ。待望の「貯蓄から投資」が、日本からのマネー逃避に終わる皮肉なシナリオもくすぶる。

シュワルツマン氏は日本の課題を、ニュートンの「慣性の法則」に例える。「物体には力が加わらない限り、静止し続けるかそのまま動き続ける」がそれだ。

じり貧を続ける経済に手を打てていないと見抜いていた。日本の国内総生産(GDP)が世界に占める比率は1995年の18%から昨年の4%に低下。世界で時価総額の上位500社に占める日本企業の数は、89年の204社からわずか30社にまで落ち込んだ。

企業、ひいては日本が負の慣性を脱するにはニュートンのいう「力」が欠かせない。経営者の強いリーダーシップで企業自ら変わるか、アクティビストに劇薬を飲まされるか。どちらが好ましいかは自明だ。ウォール街のカリスマたちは、日本が30年放置した弱点を克服できるか瀬踏みに来たのだ。

(日本経済新聞)

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