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米SPAC失速、20兆円「塩漬け」 株価急落で600社合併未定 規制も強化、投資家が距離 2022/06/04

【ニューヨーク=伴百江】米新規株式公開(IPO)市場を席巻した特別買収目的会社(SPAC)が凍りついている。株式相場の大幅下落で企業の上場機運が低迷。合併候補先の成長期待もはげ落ち、約600社のSPACが総額1600億ドル(約20.5兆円)の資金を集めながら「塩漬け」になっている。米国では金融引き締めが加速しており、投資家はSPACなどリスク資産投資に慎重姿勢を強めている。

米SPACリサーチによると上場し合併先を発表していないSPACは直近で595社、投資家から集めた資金は計1611億ドルに達する。大半は株式相場の上昇とSPACブームに乗って21年に上場した。

22年に入り株式相場は低迷している。企業と合併した後のSPACの株価も急落し合併候補先の新興企業への成長期待もしぼんだ。多くのSPACが合併先を見つけられずにいる。上場時に事業の中身が決まっていないSPACは「空箱」といえるが、箱の中には大量のお金が残ったままだ。

SPACの株価は合併企業の成長期待を反映して動く。20年から21年にかけて合併を発表したSPACの株価は上場時の10ドルから上昇する例が目立った。足元では9割のSPACで株価が10ドルを下回る。SPAC合併後の25銘柄から構成する指数をベースにした上場投資信託(ETF)「DeSPACインデックスETF」の価格は現在、9ドル台と年初の19ドル台から半分以下に下落した。

SPAC投資を手掛ける米資産運用会社リバーノース・キャピタル・マネジメントでは「300社あまりのSPACに投資しているが、この半年から1年で合併発表後の株価が上場時の価値を上回って売却益を確保できたのは1社だけ」(ポートフォリオ・マネジャーのエリック・ピーストルー氏)という。

軟調な市況を反映して今年に入ってSPACの発行は急激に縮小した。米調査会社ピッチブックによると22年初めから3月末までに上場したSPACは78社と前年同期の317社から急減し、1社当たりの平均資金調達額(中間値)は1億ドルと前年同期から半減した。

背景にあるのは投資家のSPACへの不信拡大だ。SPACが合併する企業の多くは利益を出していない新興テック企業が多い。スポーツ賭博のドラフトキングスは年初から約49%下落。新興電気自動車(EV)メーカーのルーシッド・グループは59%下げた。

SPACが合併した企業の中には情報開示が不十分な企業も多い。EVメーカーのローズタウン・モーターズでは受注台数の水増しが発覚した。商用電動車のニコラは技術を誇大に偽っていた疑惑で株価が急落し創業者が詐欺罪で起訴された。

米証券取引委員会(SEC)はSPACへの規制強化に乗り出した。SPACが合併した企業の業績見通しの開示は従来、証券民事訴訟改革法(PSLRA)のセーフハーバー・ルール(安全港の規定)によって守られていた。開示内容が「故意の嘘」ではない限り、計画未達でも投資家に対する責任は免除される。「無謀な計画だった」「過失だった」と立証できれば、民事賠償は回避できると解釈された。

警戒を強めたSECは今年3月に新ルール案を公表。SPACの提示した業績見通しをセーフハーバー・ルールの対象外にすることが盛り込まれた。5月末に意見の募集を締め切り、規制を導入する。エリザベス・ウォーレン上院議員も5月末にSPACの法的責任を明確にする法律を提案すると発表。ブームの一因だったSPACの「使い勝手」は悪化する。

投資銀行は新ルール案を受けて訴訟が増えると警戒し、距離を置き始めた。ゴールドマン・サックスはSPACのスポンサーの一部取引やSPACとの合併による上場アドバイスを停止する。シティグループも法的リスクなどが明確になるまで、SPAC発行の業務を一旦停止すると決めた。

合併発表後に一般の投資家によるSPACの解約が急増し、合併時に上場企業への私募投資(PIPES)などの新たな資金調達が必要になるケースもある。合併が実現しないリスクが高まり、合併後の株価上昇を期待して資金を投じてきたスポンサーは損失計上を迫られる。今年になってSPACの上場件数が急減したのは設立を主導するスポンサーの投資家が慎重になっているためだ。

合併先を発表していない約600のSPACのうち、大半は上場後2年の合併期限を23年1~3月期に迎える。「ブームに乗って21年に大量に上場したSPACの試練のとき」(ピーストルー氏)だ。その時点で株式市場の環境が回復していなければ、解約の急増で調達資金が消え、SPACが本当の空箱になる恐れもある。

米連邦準備理事会(FRB)は量的引き締め(QT)と利上げを同時に進めており、リスク資産に流入していたマネーが収縮している。人気を集めたSPACブームの失速はその象徴だ。

 ▼SPAC 未公開企業と合併するために設立された事業実体を持たない上場会社。英語の「Special Purpose Acquisition Company」の頭文字をとった略称。スポンサーが設立し、どんな企業と合併するか決めずに投資家から通常1株あたり10ドルで資金を募り上場する。通常、上場後2年以内に未公開企業と合併・統合させる。新規株式公開(IPO)より早く上場できる利点がある。

(日本経済新聞)

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