米地銀が破綻し金融システム不安が急浮上した2023年1～3月に著名投資家や有力ヘッジファンドはどのような米国株を売買したのか。米証券取引委員会（SEC）に提出した保有株の開示からは相場の先行きの不透明感が強い中、騰勢を強めているハイテク銘柄に傾斜する傾向が見て取れた。銀行株については持ち分を減らしてリスクを回避する投資家が大半だった。

米国では総額1億ドル（約138億円）以上の株式を保有する投資家は、保有状況をSECへ四半期ごとに届け出る必要がある。主に米上場銘柄が対象で報告書は「フォーム13F」と呼ばれ、投資行動が垣間見える資料として注目されている。23年3月末時点分の開示が5月半ばまでに出そろった。

22年12月末時点での保有銘柄と比較すると、グーグルの親会社、アルファベットなど「GAFAM」に代表される大型ハイテク株の持ち分を増やす傾向が目立つ。

1～3月に投資テーマとして盛り上がったのは文章や画像を自動作成する「生成AI（人工知能）」だ。1月にマイクロソフトが対話型AIの「ChatGPT（チャットGPT）」を手がける米新興オープンAIへの巨額投資を表明すると世界中で関心を集めた。AIの研究開発を進めてきたGAFAMのほか、AI開発に不可欠な画像処理半導体（GPU）に強みを持つエヌビディアも注目された。

米有力ヘッジファンドのタイガー・グローバル・マネジメントはアルファベットを買い増したほか、半導体大手のエヌビディアと台湾積体電路製造（TSMC）を保有銘柄に加えた。ビル・アックマン氏のパーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントはアルファベット株に新規投資した。

デビッド・テッパー氏が率いるヘッジファンドのアパルーサ・マネジメントはエヌビディアに新規投資していた。メタを買い増したほか、著名投資家キャシー・ウッド氏の旗艦ファンドでハイテク企業の投資に特化した上場投資信託（ETF）「アーク・イノベーション」を購入したことも明らかになった。

3月上旬の米地銀シリコンバレーバンク（SVB）の破綻をきっかけに金融システム不安が台頭し、銀行株を売却する動きが目立った。アックマン氏は3月にツイッターで「当局の介入があっても、銀行破綻は続くだろう」と投稿し、市場の話題となっていた。

ジョージ・ソロス氏の一族が運営するファンドでは、米南部テネシー州地盤の地銀ファースト・ホライゾン・コーポレーションの保有が減ったほか、シティグループ株のコールオプション（買う権利）も手じまっていた。ウォーレン・バフェット氏率いる米バークシャー・ハザウェイでもカストディー（資産管理）業務大手のバンク・オブ・ニューヨーク・メロン株と地銀大手USバンコープの株式をすべて売却していた。

レイ・ダリオ氏が創業した世界最大のヘッジファンド運用会社ブリッジウォーター・アソシエイツも、南部アリゾナ州地盤のウエスタン・アライアンス・バンコーポレーション、カリフォルニア州地盤のパックウエスト・バンコープといった地銀株を手放し、バンク・オブ・アメリカ株も売却していた。

3月末で銀行株の保有が増えた投資家もいた。08年の金融危機時に住宅バブル崩壊を予想した空売りで大きな利益を上げ、「世紀の空売り」で知られる著名投資家マイケル・バーリ氏が率いるサイオン・アセット・マネジメントは金融大手ウェルズ・ファーゴのほか、パックウエストなど複数の地銀株を新たに購入していたことが判明した。5月1日に経営破綻したファースト・リパブリック・バンク（FRC）も保有銘柄リストに含まれていた。

銀行株以外に保有銘柄の売却が話題になったのは電気自動車（EV）株だ。ソロス氏のファンドはEV大手のテスラ株を全株手放しており、同じくEVのリヴィアン・オートモーティブ株も一部売却していた。

足元の株式相場は、おおむね著名投資家の狙い通りに進んでいる。アルファベットなどナスダック指数組み入れ銘柄のうち時価総額上位100銘柄で構成するナスダック100指数は22日時点で22年末比27%上昇し、ダウ工業株30種平均（0.4%高）を上回る。米主要銀行株で構成するKBWナスダック銀行株指数は22%下落している。

（日本経済新聞）