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金融不安、長期化の恐れ 米資金供給は60年以降で初収縮 2023/04/05

新型コロナウイルス禍で膨らんだマネーが急収縮し、金融市場に波乱を招いている。米資金供給量は1960年以降初の前年同月比でマイナスが続く。急激な利上げとマネー縮小は米地銀の破綻や欧州銀の経営危機につながるなど、金融システムのひずみを浮き彫りにした。官民の緊急対応で小康状態になったが、欧米の不動産市場に危機の芽は残る。金融不安は今なおくすぶり続ける。

クレディ・スイス・グループとUBSは5日までにスイスで株主総会を開き、株主に経営統合を報告した。米シリコンバレーバンク(SVB)破綻とスイス大手の電撃的な救済合併で始まった米欧の金融システム不安は、いったん峠を越えつつある。欧州の銀行株で構成されるストックス600銀行指数は4日、救済が決まる直前の3月17日と比べて4%高になった。米中堅行の株価には下げ止まりの兆しがみえてきた。

もっともウォール街のトップは警戒を解いていない。「現在の危機はまだ終わっておらず、その影響は今後何年にもわたって続く」。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は株主への手紙でこう指摘した。08年のリーマン危機とは異なると強調しつつも、銀行が保守的になり、実体経済にじわじわと影響するとみている。

危機の底流はマネー供給量の急激な縮小がある。マネーの総量を示す「マネーストック(通貨供給量)」の指標の一つ、「M2(現金、銀行預金など)」(季節調整済み)に注目が集まる。米連邦準備理事会(FRB)によると、M2はデータを遡れる1960年以降(月次ベース)、22年12月に初めて前年同月比でマイナスに転じた。2月までマイナスが続く。

欧州でもM2が2月が前月比0.4%減と、ユーロの流通が始まった02年以降、同月として最も大きな減少率となった。欧州中央銀行(ECB)が積極的な利上げに動いていることが影響している。

20年の新型コロナウイルス禍で政府は強力な景気刺激策をとり、家計や企業は預金を積み上げた。22年以降、FRBは歴史的なインフレに対応するため利上げと量的引き締めに動き、過剰流動性を市場から吸収してきた。新規株式公開(IPO)などカネ余りに踊っていた市場参加者は打撃を受け、SVB破綻やクレディ危機の遠因になった。

M2減少の主因は銀行預金の流出だ。FRBによると米商業銀行の預金は直近週に1257億ドル(約16兆円)減った。減少は9週連続だ。預金者が利回りの高い金融商品に資金を移したほか、中堅銀行の信用不安が銀行預金の流出に拍車をかけた。銀行は預金の流出が続くなか、貸し出しに慎重にならざるを得ない。

実体経済への悪影響は出始めている。米銀全体の融資残高は直近の週間で204億ドル減った。減少幅としては21年6月以来の大きさだ。前年同月比でも伸び率は鈍化している。米サプライマネジメント協会(ISM)が発表した3月の米製造業景況感指数は好不況の節目である50を5カ月連続で下回った。

次の焦点は米欧不動産業界への飛び火だ。商業用不動産市場には緩和マネーが大量に流入していた。金融不安との負の連鎖に警戒が強まる。

ECBによると不動産投資ファンドの純資産価値は22年に1兆387億ユーロ(約150兆円)と、過去10年で3倍以上に膨らんだ。

ECBが懸念するのは、不動産市況の悪化を通じてマネーが逆回転する事態だ。インフレ抑制へ大幅利上げを続けるなか金利負担が上昇し、銀行による新規融資や債務借り換えが難しくなる恐れがある。「脆弱性を示す明らかな兆候がある」と警鐘を鳴らす。

米国の商業不動産ローンの約4割は銀行が資金の出し手で、このうち7割を地銀を含む中堅・中小行が占める。キャピタル・エコノミクスのキラン・レイチュラ氏は「(地銀の貸し渋りは)不動産投資家の資金調達力を圧迫する可能性が高い」と警告する。不動産向けローンで不良債権が大量に発生すれば、銀行の経営問題に発展する。

金融引き締めとマネー収縮による今回の危機は、80年代から90年代初頭にかけて起きた貯蓄金融機関(S&L)危機と似ているとの指摘は多い。

79年にFRB議長に就任したボルカー氏はインフレ抑制を最優先に掲げ、政策金利を大幅に引き上げた。貯蓄金融機関は預金金利の上昇で運用収益との逆ざやが発生し、信用不安や預金の取り付けに直面した。供給過剰に陥った不動産市場で、融資の焦げ付きに苦しんだ。

世界最大の運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOは書簡で今回の危機において「さらなる(銀行の)破綻が起きるかはわからない」と述べたうえで、「銀行がバランスシート(貸借対照表)を補強するため融資を控える必要がある」と指摘した。リーマン危機級のショックは避けられたとしても、貸し渋りによる景気後退入りの確率は高まった。金融不安を完全払拭するには時間がかかる。

(ニューヨーク=竹内弘文、ベルリン=南毅郎)

(日本経済新聞)

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