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ジョブズ氏亡きApple10年、クック氏の270兆円経営 2021/08/24

米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)が24日で就任丸10年を迎えた。故スティーブ・ジョブズ氏の死の直前にたすきを受け取ったクック氏は、スマートフォン「iPhone」を土台にアプリや音楽・動画配信サービスなど多様な収益源を持つ巨大プラットフォームを築き上げた。一方で急速な事業拡大は競合企業の反発を招き、米中対立のはざまで火種を抱える。クック流経営を読み解く。

時価総額 270兆円

朝4時前に起床し、製品に対するユーザーのコメントを読むことから一日を始めるクック氏。愚直なまでに消費者の声に耳を傾けるのが経営スタイルだ。iPhoneの高級化路線を推し進め、腕時計型端末「Watch」など新たな製品群を加えた。就任当初は天才的な創造性を持つジョブズ氏と比較され手腕を不安視する声もあったが、2011年に259億ドルだった純利益は2倍強の574億ドルに増加。時価総額はCEO就任時の7倍強の2兆4747億ドル(約270兆円)に拡大しており世界首位だ。

iPhone稼働台数 10億台

アバブ・アバロンによると、ジョブズ氏退任時に1億台だった世界のiPhone稼働台数は20年に10億台を突破した。クック氏は巧みな価格とブランド戦略で規模拡大と収益性を両立させてきた。初代で5万円前後からだったiPhoneの価格は、最新モデルの上位機種で10万円を上回る。直営店で訓練された販売員による消費体験を提供する手法は、高級ブランドそのもの。iPhoneはスマホ業界が生み出す営業利益の6割強を占め、グーグルの基本ソフト「Android」搭載端末を全て足した営業利益をも上回る。

自社株買い 50兆円

株式市場を強く意識した経営を実践し、ジョブズ氏のCEO在任中にほぼゼロだった自社株買いを復活させたのもクック氏だ。自社株買いの規模は累計50兆円近くに上る。あえて有利子負債を増やして自社株買いに注ぎ、投資家が重視する自己資本利益率(ROE)を20年に73.7%(11年41.7%)に高めた。米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米バークシャー・ハザウェイは16年からアップル株の購入を開始。アップル株はポートフォリオの4割近くを占め「投資の神様」を支える。

CCC(現金回転日数) マイナス30日

クック経営の代名詞と言えるのが、原材料などの仕入れ代金を払ってから製品を売って現金を回収するまでの期間を示す「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」だ。倒産寸前の1998年にアップルに入社したクック氏は、まず製品数を絞り込み在庫を効率化。同時に支払いを遅くするよう取引条件を見直し、常に支払いよりも現金回収が先行するCCCのマイナス状態を実現した。高収益企業になってもCCCの規律を緩めず、年間9兆円近い営業キャッシュフローを生み出している。

機械・機器など有形固定資産  4兆円

需要変動リスクなどを回避するため、自前工場を持たないファブレス経営を原則としてきたアップル。クック氏は一転して製造装置や機械への投資を増やしている。2011年度に約8400億円だった機械・機器類の保有額は、20年度に約4兆円に拡大。設備負担の重い自動車大手のホンダ(同3兆215億円)を上回る。iPhoneだけで年間2億台強を出荷するだけに、サプライヤーの投資負担を軽減する設備提供は安定調達と高品質を両立する一つの解だ。桁違いに部品の多い電気自動車(EV)市場に参入が取り沙汰される中、クック流ものづくりから目が離せない。

幹部女性比率 31%

講演で登壇する社員はすべて男性という時代が長く続いたアップル。他のシリコンバレーの企業と同様に昼夜を問わない働き方など「男性優位の職場文化」と無縁ではない。14年からの6年間で幹部職における女性比率は28%から31%に高めたが、米国全体の4割超をなお下回る。14年に自身が同性愛者だと明らかにしたクック氏は「人々が自分たちの平等を主張する契機になるのなら、私自身のプライバシーと引き換えにしても価値がある」と説明した。多様性向上に意欲を見せるがなお途上だ。

中国サプライヤー依存度 20%

調査会社TMR台北科技によると、12年に6%だったアップル主要サプライヤーに占める中国企業の割合は21年に20%に上昇。米国でiPhoneが対中制裁関税の対象に含まれそうになる場面がこれまでも度々あり、クック氏が作り上げたサプライチェーンそのものがリスクとしてくすぶる。米中対立が激化すれば中国でアップル製品が不買対象にもなりかねない。中国本土にデータセンター建設を決めたアップルにとって個人データへの政府関与懸念も拭えず、多様な中国リスクへの対処は難題だ。
有料アプリ配信市場シェア 64%

米調査会社センサータワーによると有料アプリ配信市場におけるアップルのシェアは64%と、唯一の競合であるグーグルの36%を引き離す。有料アプリから15~30%の手数料を徴収することで年間2兆円超の収益を上げるとみられる。一方、自社以外のアプリ配信基盤や決済サービスを認めない姿勢に対し「反競争的だ」との声も出始めた。欧米ではアップルに対しアプリ配信の外部開放を義務付ける法改正の動きもある。製品とアプリ配信基盤の垂直統合を前提とする事業モデルは曲がり角を迎える。

後継者

60歳のクック氏はテック企業CEOとして長老格だ。21年春の米紙とのインタビューで、クック氏はCEO職について「あと10年続けることはないだろう」と述べた。米メディアなどで後継候補としてまず上がるのが、ジェフ・ウィリアムズ最高執行責任者(COO)。調達部門幹部として入社し、iPhoneやApple Watchの開発で重要な役割を果たした。対抗と目されるのが「iOS」や「macOS」などソフトウエア開発を指揮するクレイグ・フェデリギ上級副社長。米環境保護局(EPA)長官から転じ、環境・政策・社会問題を担当するリサ・ジャクソン副社長も注目を集めている。

(シリコンバレー=白石武志、東京=新田祐司、グラフィックス=仙石奈央、企業財務エディター=森国司)

「記憶」に残る経営を再び

スティーブ・ジョブズ氏が後継者に推し、取締役会も「適任者だと絶対の自信がある」と太鼓判を押して最高経営責任者(CEO)に就いたティム・クック氏。10年間の業績を見る限り、判断は正しかったといえる。

時価総額1兆ドル、2兆ドルの達成は米企業で最速だ。株主還元の多さ、資金効率の高さも目を引く。間違いなく「記録」に残る経営だが、ジョブズ氏が「記憶」に残る経営の実践者だったことをいま思い出す意義はある。

2001年の音楽プレーヤー、iPod発売で復活に向かうジョブズ時代のキーワードは「変化」だった。iPodと音楽配信が最大の収入源になったのは06年。「パソコン会社」が「音楽会社」に変身した。翌年にはiPodの需要が減るのを覚悟のうえiPhoneを投入。10年にiPhone部門の売上高が最大の「スマホ会社」となった。

この間、娯楽や通信、端末などの業界構造も一変させた。既存勢力への挑戦者としてアップルは存在感を示した。

クック時代に入ると、キーワードは変化から「拡大」に移る。

得意のサプライチェーンを磨き、完成度の高い製品を世界に供給するしくみを敷いた。中国には自ら何度も飛び、販売体制づくりに注力した。iPhoneやブランドといったジョブズ時代の「遺産」の相続者として手堅い手腕を発揮した。

とはいえ、物足りなさは否めない。

09年2月25日、アップル本社での株主総会。療養中のジョブズ氏は欠席していた。質問に立った株主の一人が言った。「昨日はスティーブの54歳の誕生日だった。一日も早い回復を祈って、みなさん歌おう」。株主全員が立ち上がり、ハッピーバースデーを合唱した。

印象的な製品やサービスを送り出し、人々を熱狂させるのがこの会社の持ち味であり、勝ちパターン。そう再認識させる出来事だった。この物差しで直近の10年を測れば、アップルが切り開いたと誰もが認める巨大市場は見つけにくい。

記憶に残る成果を期待できるのはどこか。クック氏がこだわってきた分野はふたつ。アップルウオッチなどで身体・健康データを活用するヘルスケア、現実空間にデジタル情報を映す拡張現実(AR)だ。参入の噂がある電気自動車を含めた3領域が「記憶」を残す候補かもしれない。

ただ、強力なライバルがひしめき、凡庸な策では勝てない。

「10年後のアップルの姿は?」と2年前に尋ねると、クック氏は答えた。「アップルは根っからのプロダクトカンパニー。ハードとソフトとサービスが交差して生まれる魔法を追い求める」

言葉通りの魅惑的なプロダクトをつくり、経営に新たな推進力を得る。CEO11年目に突入したクック氏の課題だ。
(本社コメンテーター 村山恵一)

(日本経済新聞)

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