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21年初のユニコーン上場 ビズリーチ親会社のビジョナル  資金調達、海外9割 2021/04/22

ビズリーチは企業やヘッドハンターが求職者にアプローチできるサービスを展開する
人材サービスのビズリーチを傘下に持つビジョナルは22日、東証マザーズ市場に株式を上場した。初値ベースの時価総額は2500億円を超え、国内企業では2021年で初めてのユニコーン(企業価値10億ドルを超える未上場企業)の上場となった。ビズリーチの主戦場である高収入層の転職市場は堅調だが、売上高の8割を同事業に依存する収益構造には危うさも伴う。持続成長には近年のユニコーンの鬼門となっている「多角化」がカギを握る。
22日のビジョナル株は朝方から買い気配が続き、午前10時25分ごろに公募・売り出し価格(5000円)を2150円(43%)上回る7150円で初値を付けた。これを元に算出した時価総額は2544億円となった。設立20年以内の新興企業で企業価値が10億ドル(約1080億円)を超えるユニコーンの上場は20年12月のプレイド以来だ。上場時の企業価値は18年6月のメルカリ(上場日終値ベースで時価総額7172億円)以来の大きさで、上場企業ではJ・フロントリテイリングやレンゴー、日本触媒と同等の水準だ。
新規上場にあたって、創業者でビジョナル社長の南壮一郎氏は「海外投資家の中で中長期目線のロングオンリー(買い持ち専門)と対話する機会を多く持てた」と話す。資金調達における海外比率は89%と、プレイド(同78%)を上回り、近年の新興企業では極めて高い水準だ。
ビジョナルは6日に公開した海外投資家向けの仮目論見書で、米運用会社大手のキャピタル・インターナショナルなど3社が最大で、今回の公募・売り出し株数のうち約3割にあたる444万9000株を購入することに関心を示している、と言及した。自社の募集・売り出し価格の適正さを示す目的で使われる手法だが、投資家から承諾を得る必要があるため、日本企業の実施は珍しい。
主幹事の三菱UFJモルガン・スタンレー証券は「投資家が同社を評価した証左だ」と説明する。別の大手証券の公開引受担当者は「すでに利益を出せている点や米国に存在したビジネスモデルで分かりやすい点、南社長の英語が流ちょうで、ビジョンがしっかりある点が評価された」と分析する。
主力事業のビズリーチは企業やヘッドハンターと求職者をマッチングするサービスで、求職者に直接アプローチして即戦力人材を採用できる点が受けた。人材会社による紹介が主流だった業界の常識を変え、後発ながら利用企業を着実に増やしている。09年のサービス開始から12年間で提供実績は1万5500社以上に達した。
現在はリクルートなど他社も同様のサービスを展開するが、対象の求職者層が幅広い。対してビズリーチは高収入層に特化した点が特徴で、即戦力が採用できるというイメージを強く根付かせた。このため企業側と求職者側の双方から新規利用を呼び込める構図だ。

ビズリーチには企業やヘッドハンターから利用料や成功報酬が入る。景況感が悪化しても企業はIT(情報技術)関連人材などの獲得には積極的で、高年収層の転職市場は活況だ。ビジョナルの21年7月期の連結売上高見通しは前期比3%増の267億円。営業利益は前期に新型コロナウイルス禍で費用を絞った反動が出て56%減の9億6000万円を見込むが、上場時に営業赤字も多いスタートアップの中では安定的だといえる。
ビズリーチへの依存大きく
株式市場の期待は高いビジョナルだが、課題もある。連結売上高の約8割を稼ぐビズリーチへの依存度が大きい点だ。この12年間は転職市場の拡大期で、高収入層に直接アプローチできる新モデルは業界で一定の地位を築いた。だが、転職市場自体は本来景況感に左右されやすく、業界全体でみると競合も多い。同事業だけで中長期の成長を続けるのは難しそうだ。
手は打っている。ここ数年は新規事業の種をまき続け、20年2月には事業を多角化しやすいように持ち株会社体制へ移行した。南社長は新規事業の立ち上げに集中できるよう、ビズリーチ社長を多田洋祐取締役(当時)に引き継いだ。採用・人材管理ソフトウエアのHRMOS(ハーモス)、荷主と運送企業を引き合わせるトラボックス、事業承継向けのM&A(合併・買収)マッチングサイト……。足元の展開内容は幅広い。
今回の上場で調達する資金でも多角化に弾みをつける。現金および現金同等物として約200億円が手元にある格好で、投資余力はある。特に注力する事業はハーモスだ。採用や人材の情報を管理するソフトウエアをクラウド経由で提供して利用料をとる。21年1月末時点の利用は849社と前年同期末に比べ11%増えた。

各ポストの職務を明確化し、その能力を持つ人材を配置する「ジョブ型」の人事制度を導入する企業の需要を捉えている。積極的な開発投資で「5~10年をかけ、勤怠や給与管理の機能を含めた一気通貫型の人材活用ソフトウエアに仕立てる」(南社長)。調達資金は新規事業開拓などを目的にM&A(合併・買収)にも振り向ける。
ビジョナルにとってはビズリーチの事業基盤を転用し、成功体験をいかに繰り返せるかがカギだ。創業初期のビズリーチに投資したベンチャーキャピタル、ジャフコグループの藤井淳史パートナーは「IT(情報技術)サービスを作り込める人材が多く、有言実行の文化もある。この点は多角化において強みだ」と評価する。
メルカリも苦労
とはいえ、成長のタネが想定通りに実を付けるか不透明な要素もある。市場では「ビズリーチの競争優位性は高く、市場拡大余地も大きいが、利用者の獲得コストの増加は懸念材料だ。ハーモスは競合が多く、差別化が重要になる」(証券アナリスト)との声も上がる。
一つの事業を大きく育てたスタートアップでも次の柱を築くのは簡単でなく、時間がかかる。祖業自体も成長途上のため、経営リソースを振り向けにくい面があるためだ。
たとえば、メルカリは自転車のシェアリング事業「メルチャリ」から撤退、旅行サービス「メルトリップ」は正式開始前に終えた経緯がある。印刷・物流サービスのラクスルは主力の印刷ECサービスに加え、荷主と運送業者とのマッチングやテレビCMの広告効果を一覧できるサービスも手掛ける。後者の2事業が売上高の3割を稼ぐには約5年がかかった。
南社長は「1~2年で業績をあげる経営はせず、10年先を見据えている」と強調する。だが、上場後は3カ月ごとの業績開示を義務付けられ、中長期志向の投資家だけでなく、短期で結果を求める投資家の視線にもさらされる。ユニコーンから上場企業にフェーズが変わり、規模を拡大するなかで、より繊細で難しいかじ取りを求められる。
(香月夏子)

(日本経済新聞)

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