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株失速が暴く企業の自力 2021/05/29

日経平均株価は28日、大幅高で終えて2週続伸した。その割に市場に明るい空気が広がらないのは、相場の行方を左右する外国人投資家の買いが目立たないからだ。世界の株価と比べれば、4月以降は日本株の劣勢が続く。
日本企業は外国景気の回復や円安など、外部環境の追い風を受けている。上場企業の2021年3月期決算は純利益が前の期に比べて2割以上増えた。なぜ投資家は日本株を避けるのか。
答えは、海外の企業がより稼いでいるからだ。QUICK・ファクトセットによると、日本企業の今期のEBIT(利払い・税引き前利益)の増加率は22%。これに対し米国は38%、欧州は37%、日本以外のアジアは28%も伸びる。
それだけではない。前期の営業利益率は日本の6.1%に対して米国は10.6%、欧州は8.1%、アジアは9.2%だった。
自己資本利益率(ROE)を見ても、日本は5.7%どまりなのに米国は10.5%、欧州は6.4%、アジアは7.7%と高い。
世界を見渡して銘柄を選ぶ投資家の本音はこうだ。「成長性も、収益性も、投資リターンも見劣りする日本株を選ぶ理由がない」。株価の失速は、世界的な金融緩和で膨張したマネー奪い合いに日本が敗れている警告でもある。
個別企業で検証しよう。米JPモルガンは建設機械の世界大手米キャタピラーと、中国の新興メーカー三一重工の株に対する投資判断を、買い推奨の「オーバーウエート」と位置づける。一方、日本のコマツ株は「ニュートラル(中立)」にとどめている。
JPモルガン証券のアナリスト、佐野友彦氏はコマツの境遇を、キャタピラーと三一の間で埋没する「サンドイッチ」に例える。
巨大市場の米国ではバイデン政権が2兆ドル(約220兆円)に及ぶインフラ投資計画を打ち出した。収入の2割を米国に頼るコマツにも追い風だが、4割近くのキャタピラーにはもっと追い風だ。成長するアジアの主戦場である中国やインドネシアでは、三一など中国勢が小型機で追い上げ、コマツは販売シェアを落としている。
コマツは今期、純利益の37%増を見込んでいる。それでも保有銘柄を絞る投資家は、ライバルを負かさないと選んでくれない。
日本企業の弱点は、経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国中26位にとどまる1人当たりの労働生産性だ。この値が改善すれば企業の収益性は高まり、成長性もリターンも上昇するだろう。
世界の市場関係者の間で今、米国の生産性に注目が集まっている。今年1~3月、生産性をはじく数式の分母である就労者が前の期より増えたのに、分子の国内総生産(GDP)がもっと増える形で過去最高水準になった。

米国の生産性は一貫して上昇し、景気低迷の後は加速すらしてきた。逆境を乗り越えるために企業がいったん雇用を減らし、少ない人数でも同じ結果に近づくよう工夫を重ねたからだ。コロナ危機を受けた今回は、デジタル化投資が生産性向上の立役者だった。
日本の1~3月の生産性は、GDPが落ち込んだ昨年こそ上回ったが、08年のリーマン危機の後と変わらない。成長性の高い業種への労働移動を促す雇用政策、そのための社会人教育、起業の環境整備……。世界に置いていかれないためにも、滞っている政策課題を一気に進めるべきだ。
企業では4月、生産性の特効薬であるイノベーションをめぐって明るいニュースが出た。米ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が世界の経営者に聞く「イノベーション企業50傑」。日本からトヨタ自動車などの常連とともに、三菱商事が05年の公表開始以来初めて45位に食い込んだ。
近年のイノベーションの特徴は、ランキングの上位を占める「GAFA」の「業種の壁を壊して価値を生む力」だ。3位のアマゾン・ドット・コムは顧客データを武器に生活用品、映像や音楽の配信へと進出し、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)の買収で映画製作に食指を動かす。
三菱商事の戦略もGAFA的だ。NTTと組み、食品関連の業種の壁を越えて人工知能(AI)で物流や在庫を管理する。産業の垣根を壊してデジタル変革を進める期待がランキング入りの背景にあるとBCGは分析する。
それでも市場は成長性を疑っている。PBR(株価純資産倍率)は0.8倍にとどまり、今のままだと企業価値を毀損するという冷徹なメッセージを放ったままだ。
「日本株式会社」の縮図でもある。PBRが1倍未満の銘柄は4月末で全体の45%と、米国の13%を大きく上回る。イノベーションでGAFAと戦うには、多額の報酬を払ってでも世界から人材を集め、失敗も許容するなど日本的経営の枠を超える挑戦が必要だ。
金融緩和の縮小が始まれば、おびえた投資家は銘柄をもっと厳選する。それまでに生産性を高め、世界の投資家を驚かせるストーリーを作れるか。政府にも経営者にも時間は残っていない。
1987年10月19日、米株式相場が1日で20%以上暴落した。「ブラックマンデー」だ。レーガン大統領は当日の第一声で投資家の動揺を鎮め、株価は底を入れた。「生産性は上昇中だ。パニックになるべきではない」。今の日本の指導者には言えないだろう。危機に立ち向かう生産性大国・米国の底力と日本の課題が浮き上がる。

(日本経済新聞)

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