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気がつけばアクティビスト天国  東芝揺らす「正論」株主、官製指針が後ろ盾 2021/6/21

上場企業の株主総会が6月下旬に開催ピークを迎える。ここ数年は「アクティビスト」と呼ばれる物言う株主が突きつける要求に翻弄される企業が少なくない。折しも東芝と筆頭株主エフィッシモ・キャピタル・マネージメントとの攻防が明るみに出た。それもそのはず。実はいま、世界中のアクティビストが日本に押し寄せているのだ。
「利己主義」「横暴」「宇宙人」。日本人アクティビストの草分けである村上世彰氏の通称「村上ファンド」が動き出した2000年代初め、企業や市場関係者の村上評は辛辣だった。「いきなり現れて企業を脅してカネをむしろうとしている見たこともないヤツ」という嫌悪しかなかった。
それから20年。日本の資本市場の風景は一変し、かつて宇宙人の要求だった大幅な増配や自社株買い、社外取締役の選任といった株主提案に、もうだれも驚かない。東芝の昨年の株主総会をめぐり「公正に運営されたとはいえない」とする弁護士の調査報告書を引き出したのは、村上ファンド出身者が立ち上げたシンガポール拠点のエフィッシモだった。

かつては「宇宙人」、日本に相次ぎ上陸
米国企業から「最恐」と疎まれる米エリオット・マネジメントなども上陸し、日本で活動するアクティビストは50社近くに増えた。株主判明調査などを手がけるアイ・アールジャパンによると、21年時点で世界のアクティビストが持つ日本株は3兆8300億円と、この5年で2倍以上になった。

アクティビストは狙いをつけた企業の株式を取得し、過剰に積み上がったキャッシュの株主還元や収益改善に向けた経営改革を要求して株価上昇をもくろむ。はた目には「極論」であっても物言うことで市場の期待が高まれば収益機会になる。世界のアクティビストファンドは過去3年間、年率15%以上のリターンを上げた。
もっとも、企業を調査分析して要求の突破口を見つけ、株主提案を出すのはかなりの手間がかかる。このため世界で同時多発的に行動できるアクティビストはエリオットや米サード・ポイントなどごくわずか。多くは少数精鋭で有望案件に集中しており、その標的がいま、日本企業なのだ。
例えば英アセット・バリュー・インベスターズ(AVI)は、本国でアクティビスト活動をほとんどしない一方、日本では今年、日鉄ソリューションズ、東京ラヂエーター製造などに7件の株主提案を出した。いまや世界のアクティビストの保有株の約1割が日本株とみられる。きっかけは「日本の制度改革が進んだから」(米アクティビスト関係者)だという。
ひとつは第2次安倍政権下の15年、「持続的成長」のために策定された「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」だ。基本原則に「株主の権利の確保」「株主との対話」などを掲げており、上場企業経営の実質的なルールとして機能している。
安定株主として無風の「シャンシャン総会」を支えてきた金融機関の議決権行使に対する目も厳しくなった。14年策定の機関投資家の行動指針「スチュワードシップ・コード」で企業統治を監視する責任が明文化されたからだ。これまでに約300の機関投資家が同指針の受け入れを表明。旧財閥グループや取引関係をベースにした「持ちつ持たれつ」が崩れ、アクティビストが勢いづいた。
欧米並み「開国」、企業に免疫なく
いずれの指針も日本経済再生という国策のため企業と投資家の行動原則を欧米レベルに引き上げるものだが、多くの日本企業の内実は改革途上だ。取締役会はシャンシャンが当たり前、収益力のモノサシである「自己資本利益率(ROE)」で欧米に水をあけられ、一方で現預金を多く持ち資本効率が極めて低い――。
日本の上場企業は約3900社と過去最多水準にあり、市場の厳しい目にさらされてピークから半減した米国とは対照的だ。多くの日本企業は、株主価値の最大化のため黒字事業さえも切り売りするといった株主資本主義のドライな思考にまだ免疫がない。
アクティビストに狙われる企業は少なからず過去の成功にとらわれ、稼いだキャッシュを抱えたまま事業モデルが色あせていることが多い。水面下の対話で折り合えず、ときに極端な株主提案を突きつけられる背景には、企業自らが株主のほか債権者、従業員といった利害関係者に響く成長ストーリーを語っていない実態もある。

香港のアクティビスト関係者は「攻略が難しかった日本が突如として『開国』してくれた」と表現する。理念先行の官製指針を掲げて形から入った改革の必然として、日本は世界のアクティビスト天国になった。

(日本経済新聞)

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