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東哲郎(1)起伏の人生 東京エレクトロン元社長  半導体が変えた日常生活 製造装置でデジタル社会担う 2021/04/01

私が社会人として一歩を踏み出したのは44年前の4月1日だった。スマートフォンを体の一部のごとく操るデジタルな現代の新入社員とは違って相当なアナログである。愛用するパーソナル機器は旅先に持参する小型ラジオ。仕事の書類はタイプライターでカタカタ打った。営業職となり携帯電話を持たされたが、ショルダーバッグのように大きく重い。ケータイとは名ばかりの代物だった。
その後の世の中の変ぼうぶりはすごい。ビッグデータや人工知能(AI)といったデジタル技術が社会に入り込み、頭脳、記憶、知覚、伝達の手段として暮らし、経済に不可欠なものとなっている。
変化の土台に半導体の進化がある。指先に乗るごく小さなチップに膨大な知恵がつまった魔法のような存在。かつて「産業のコメ」と呼ばれ、いまはライフラインを支える基本要素として改めて脚光を浴びる。半導体を生み出す装置メーカーの一員としてデジタル化の一翼を担えたことは感慨深い。
といって私は機械いじりが好きなメカ少年でも、エンジニアでもなかった。10歳まで家には電話もテレビもなく、家にある電化製品といえば、天井からぶら下がる電灯とたんすの上の真空管ラジオくらい。音楽はハンドルを回す蓄音機で聞いた。学生時代は哲学と経済史にのめり込んだ。
東京エレクトロン入社は半ば偶然だった。入社間もないころ、先輩が雑誌に載った写真を見せてくれた。私には「工場のような建物が立ち並ぶ迷路」に見えたが、それは最新マイクロプロセッサーの回路の大写しだった。そんな私が長らくハイテク企業のトップをつとめたのだから世の中は予想がつかず、面白い。
半導体産業には好況・不況が繰り返すシリコンサイクルというのがある。大変だが、だからこそ次の飛躍も生まれる。私のビジネス人生も起伏が多かった。40代半ばで社長に抜てきされたが行き詰まり、トップを退いたことがある。会社の未来のためにと挑んだ米社との経営統合は、土壇場で断念せざるを得なかった。それでも頼れる仲間に囲まれ前に進んできた。
デジタル技術にどんなイメージをお持ちだろうか。0と1、アルゴリズムが支配するドライな世界? 私はそうは思わない。肝は人間の心だ。
この技術の威力は大きい。目的と使い方を誤れば、深刻な事態を招く。米国でソーシャルメディアが社会の分断に拍車をかけたのは象徴的だろう。デジタル技術を制御するのは人間であり、有用な道具として生かすには明確な意思がいる。人間そのものが問われている。
私は楽観的だ。人間の英知と無限の可能性を信じる。東日本大震災から10年。なお課題は多いが、被災地の方々が示す復興への決意は世界の人々の胸を打った。励ましに行った被災地では私のほうが励まされた。過酷な状況で人の思いやりや忍耐に触れた。
人間は他者との結びつきに学び、鍛えられ、成長する。信念、希望、夢が生まれてこそデジタルな未来は成り立つ。これまでの人生で私が得た実感だ。スマートな物語とはいかないが、きょうから社会人というみなさんを含め若い世代の背中を押す話ができればと思う。かつて若者だった方々にも何らかのヒントになればうれしい。
まずは時計の針を1949年に戻したい。
(東京エレクトロン元社長)

(日本経済新聞)

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