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東哲郎(21) TELバリュー  会社の原点 社員と再確認 CEOに就任 拠点巡り語り合う 2021/04/22

2005年1月、私は代表取締役会長で最高経営責任者(CEO)というポジションに就いた。再び経営のトップに立ったわけだ。赤字の責任をとり退いてから1年半。納得がいかない気もする。心のなかでもう一人の自分が「復帰すべきでない」と言っていた。しかし、指名委員会で決まったことである。従わないわけにはいくまい。
前の年の後半ごろから、ずっと落ち込んでいた半導体業界の投資が盛り返してきていた。新たな成長の風が感じられる。環境変化に合わせ、東京エレクトロンも思い切って力を発揮すべき時期を迎えている。それを社員にきちんと伝えることが、まずは自分の役目と考えた。
再出発にあたり、会社に成長をもたらした原点となる考え方、会社が大切にしてきた価値を社員とともに再確認したいと思った。始めたのが「TELバリュー」という活動だ。TELは東京エレクトロンの略称である。メンバーとして30代前半の社員20人ほどを選抜した。彼らが同僚や上司、部下のほか、創業者、OBにも会って、会社への思いを聞いて回るのだ。
活動は1年におよんだ。私も参加してメンバーによる会議を重ね、内容を整理して06年にまとめたのが5項目の「TELバリュー」。小冊子にして全社員に配った。簡単に5項目に触れておく。
まず、顧客に最先端の技術・製品を提供する「誇り」。変化を好機ととらえる「チャレンジ」。問題意識をもって課題に取り組む「オーナーシップ」。お互いを認め合う「チームワーク」。そしてルールを守り地球環境に配慮する「自覚」である。
冊子には「私が大切にしたいこと」を各自が書くページもある。自分の冊子を読み返すと、私はこう書いている。「お客様にとって高い利益を生み出す製品・技術の販売と技術サポートを通じて産業・社会に大きな貢献をする。我々の手元に残る利益はこの貢献の大きさを示す」
冊子を配布しておしまいではない。私は工場、営業所などの拠点を巡り、補足の説明をした。風通しがよくコミュニケーションが活発な組織をめざすこと。社員の能力を信じて任せ、失敗からの学びを奨励すること。会社は社員を守り成長を後押しすること。そういう私なりの思いを話して回った。
そんなとき、茨城の水戸でなるほどと感心する取り組みに出合った。半導体部品の販売で長い間、成績のいい営業所があり、そこで実施していた「自慢の会」だ。毎週金曜に社員が集まり同僚の仕事ぶりを自慢し合う。それが仕事のやりがいを高め、新たな創意工夫につながっていた。
こういう企業文化こそ大切と思い、私は各地に出かけては、社員たちの自慢話を聞くようになった。3年かけた。1000人削減のリストラが社員の心に落とした影は濃く、成長をめざす経営へのギアチェンジには相応の時間が必要と考えたのだ。

ある日、経営幹部の会合でのことだ。私は出席者に問いかけた。「どうすれば社員の愛社精神を高められるだろうか」。一人が手を挙げた。フィールドサービスの責任者で、現場を大事にすることで有名な石井浩介さんである。
「相変わらず東さんは上から目線ですね。まずは『愛社員精神』でしょう。会社が社員に愛を示せば、おのずと愛社精神は出てくる。順番が違います」。まったくその通り。また勉強したと思った。石井さんは18年に66歳で亡くなった。残念でならない。
(東京エレクトロン元社長)

(日本経済新聞)

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