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MBA修了生の平均年収と上昇率  起業家精神持つ人材育てよ スタートアップの課題 2021/05/21

ポイント
○高い理念の実現を目指す強い気持ち重要
○日本のビジネススクールにも役割と効果
○起業家精神の浸透が技術革新の原動力に

2010年前後から第4次産業革命・デジタル革命がスタートし、ベンチャー企業など新興勢力が産業構造を塗り替える動きが活発化している。特にデジタルの力は産業・企業の優劣を決めるばかりか、世界の産業構造の新陳代謝による変革を加速している。米シリコンバレーは当然のこと、中国ベンチャー企業の躍進は目を見張るものがある。
一方で、日本の既存企業は「知の探索」よりも、閉じられた世界での「知の深化」にこだわり、イノベーション(技術革新)の機会を失ってきた。破壊的イノベーションの時代にもかかわらず、既存企業はリスクの大きな投資など成長のための戦略的意思決定を回避する、またはタイミングを逃し続けてきた結果、長期低迷に陥っている。
ベンチャー企業の中には新しい基盤技術を活用しながらビジネスモデルを徹底的に模索する企業がある。その過程ではベンチャーキャピタルなどからリスクマネーを得て、タイミングよく一見リスクの高い事業にも果敢に挑戦することで、新しい産業を自ら創造していく。既存の大企業も近年こうしたダイナミズムを取り入れるべく、ベンチャー企業と積極的に手を組む動きを活発化させている。
だがこれらの活動もブームに追随する企業が多く、持続的成長を可能にする既存の本業至上主義からの脱却や新陳代謝の促進による組織の活性化を本気で推し進める動きは限られる。
ベンチャー企業、大企業、ベンチャーキャピタルなどのサポート機関、そして大学が密接な関係を構築し、社会に新たな付加価値を創出していくエコシステム(生態系)の重要性が日本で言われて久しい。今こそこのエコシステムを高速回転させないと、世界のイノベーション創出で日本の地位没落が決定的となろう。
いまだに不足しているのはアントレプレナーシップ(起業家精神)だ。社会を変革していくという高い理念を持ち、仮説を立て、実践し、修正しながら困難を克服してでも実現するという強い気持ちのことだ。
これは何も独立してゼロから創業するベンチャー経営者だけに必要なものではない。大企業の新規事業に携わる人、支援するベンチャーキャピタル・弁護士・公認会計士、大学関係者、政府・地方自治体、取引先、さらにはSDGs(持続可能な開発目標)推進組織など、あらゆる組織・団体の人に求められる精神だ。

世界に通用するイノベーションは、大学などの研究室で生まれた最新技術だけで成就しない。また非常にユニークで先駆的なビジネスモデルを思いついても、KKDH(気合、根性、度胸、はったり)だけでは成功しない。適切な経営ロジックに基づき、成功・失敗の法則やチームの組成、資金調達など、経営の本質について学ぶ必要がある。
大きな技術変化のなか、未来への確信と可能性を得て、起業という行動に踏み切る決断をして、その後も大胆で非連続的な意思決定をダイナミックに続けること、すなわち起業家精神の持続には経営者がしっかり学んでおくことは重要だ。
筆者は起業家精神の定着を目指し、12年から早稲田大学ビジネススクールで教えている。そこでは何か新しいものや一生かけて追求する価値観を見つけたいという情熱が渦巻いている。
大半の学生は大企業のエリートであり、当初は「いかに現在勤務する大企業の中で出世するか」を考えがちだ。しかし起業家精神を学ぶにつれて、自分の会社にイノベーションを起こせる体質があるのか、このままの会社の方向性でよいのか、自分はどのような行動を始めるべきかについて真剣に考えるようになる。
起業家精神の高揚とその後の発展性を実現するような起業家社会を作り出すため、ビジネススクールは大きな役割と効果があると確信している。単に技術力を競うエンジニア大学でも経営学だけを教える大学でも不十分であり、理論(サイエンス)と実務(アート)、技術と経営の融合、知の社会実装を志向するビジネススクールだからこそ成し遂げられる部分がある。
一方で、日本のビジネススクールを巡っては「効果が少ない」「世界の一流ビジネススクールとの格差は大きい」という批判も耳にする。そこで今回、早大ビジネススクールの修了生に匿名でアンケートを実施して、海外有名ビジネススクールと比較した

その結果、海外のフルタイム経営学修士号(MBA)修了生、オンラインMBA修了生(働きながらMBAに通う学生が多いという意味では国内の大学に近いと思われる)と早大の間では、年収額でみるといまだに大きな差がある。しかし年収上昇率でみると、オンラインMBA修了生と早大の間にそれほどの格差はない。
海外のフルタイムMBA修了生は大半が退社してMBAに通い、年収が高い企業に再就職しているので上昇率が高いと推定される。
一方、オンラインMBA修了生と日本の上昇率が低い理由は、企業派遣学生が修了後に元のポジションに戻り学びが生かされない状態になっている、または修了後に転職・独立しベンチャー企業を創業しても年数が浅く年収上昇が限られるケースも多いからだろう。それを割り引いたとしても早大とオンラインMBAの間で上昇率の差が大きくないことから、日本のMBAに通っても年収上昇率には効果があるといえよう。
さらに年収額、上昇率、ベンチャー企業の創業比率(ファミリービジネスを継ぐ場合も含む)、会社の中での昇進率、またビジネススクールで学んだことを今の仕事に活用している有効率を調査すると、起業家精神に触れる機会が多いほど数値が高い傾向にある。

筆者のゼミの修了生に限れば、46%が独立したかファミリービジネスを事業継承するなど、職業が変わっている。年収の上昇や独立、会社内での昇進だけが人生の目的ではないが、ビジネススクールで起業家精神を学ぶことは、学生のマインドセットを向上させる効果があったといえよう。
例えば、大手製薬会社で研究開発を手掛けてきた学生は、起業家精神を学び、創薬ベンチャーと大手製薬会社との連携がうまくいかない現実を目の当たりにして、その橋渡しをしようと在学中に大学ベンチャーキャピタルに転職した。
企業内で活躍する学生もいる。IT(情報技術)大手で事業開発をしていた学生は、社内に起業家精神を持つ人間が少ないことに危機感を覚え、技術系創業準備者が集うインキュベーション(ふ化)施設の開設を会社に提言し、自ら部署替えを願い出た。多くの人材とワークショップを体験するなど、この施設は社内意識の変革に貢献している。
起業家精神の向上には身近な成功事例を体感することも大切だ。小学生など幼少期からの体験学習や、大学・ビジネススクールでの学習を現在の会社で小さくても実践してみることなども有効だ。起業家精神の浸透がイノベーション創出における国難を乗り切る一手となることが期待される。

はせがわ・ひろかず 61年生まれ。早稲田大博士(学術)。専門はベンチャー論、ファミリービジネス論

(日本経済新聞)

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