次の社長を誰に託すか――。その判断は、経営を預かる身として重大な責任を伴う。会社や経営者によって色々な判断基準があると思う。ここで指摘したいのが、指名委員会等設置会社のことだ。いわゆる「経営の執行と監督の分離」を促すため、日本では2003年に導入された。昨年8月時点で、77社の上場企業が採り入れている。
経営陣による独善的な人事を防げるとあって海外の投資家などには受けが良い。ただ、どうだろうか……。業績などの面でその効果が発揮されたという例は少ないように思う。なぜだろうか。
普段は経営に携わらない委員会が経営トップを指名するとなると、どうしてもプレゼンで理路整然と話すタイプの人が有利になってしまうのではないか。ゴルフでも話だけを聞いていたらシングル・プレーヤーかと思う人が、実際にラウンドしたら「そうでもないなぁ」ということがある。それに似ている。やっぱり仕事をともにしてお客さんとどう向き合うか、様々な場面でどんな判断を下すのかを見て人選しないとリスクが大きいというのが、私の意見だ。
そう言いながら当社も指名委員会を置いている。もちろん意見はいただき尊重する。ただ、任命責任を負えるのは経営トップだけだと思う。私もそういう覚悟で今回、石井敬太君を社長に選んだ。彼は当社が注力する蓄電池や再生可能エネルギーなど環境事業を先頭に立って開拓してきた。新ビジネスを作る手腕は確か。フットワークも軽くまさに伊藤忠が模範とすべき商人だ。
さてさて、ここまで言ったからには、石井君とともに私も結果で示さないと。

（日本経済新聞）