ユニオンバンクは個人向けから法人融資、富裕層向け業務など銀行の基本機能を網羅していた
三菱UFJフィナンシャル・グループ（MUFG）は21日、傘下の米地銀、MUFGユニオンバンクの中小企業・個人向け部門を米最大手地銀、USバンコープに売却すると発表した。ユニオンバンクは長年、米事業の中核だったが、金利低下と規制強化で個人向け事業は利益が出にくくなっている。8800億円という巨額の事業売却で、金融のデジタルトランスフォーメーション（DX）を進める構造改革に聖域なく踏み込む。

ユニオンバンクは個人向けから法人融資、富裕層向け業務など銀行の基本機能を網羅する。三菱UFJはメガバンクで唯一、ユニオンバンクを通じて米州でリテール事業を展開してきた。

2011年の三菱UFJの資料には、「地域密着型のビジネスと、特定分野での全米ビジネス展開で、収益性の高い銀行を目指す」と記されている。14年に米国事業を再編し、米国で金融持ち株会社を設立すると法人向けの貸し出しもユニオンバンクの口座に切り替えるなどしてユニオンバンクの機能を生かしてきた。

ただ「バランスシートの統合が米金融当局に許可されなかった」（関係者）結果、当初の想定より経営の効率化効果は小さくなった。他のメガバンクと異なり個人のドル預金を集められる半面、店舗を持たない新興のデジタルバンクとの競争の激しさや資金洗浄（マネーロンダリング）対策など規制対応コストは増した。費用対効果が長年の課題だった。

売却先のUSバンコープは「USバンク」の名称で全米に店舗を展開する。ユニオンバンクと同様に住宅ローンなど個人向け商品を展開するほか、クレジットカードの決済業務なども展開する。インターネットバンキングも強化しており、売却後も、出資を通じた提携でデジタル分野での協業効果が期待できるという読みもある。

MUFGは08年のリーマン・ショック時に米モルガン・スタンレーに90億ドルを出資し、11年に持ち分法適用会社とした。持ち分法投資益などで出資額全額を10年で回収。その後も純利益の4割を稼ぐなど貢献している。サントリーホールディングスによる米ビーム買収など国境をまたいだM&A（合併・買収）助言案件も積み上げ、投資銀行業務での成果もあげた。

モルガンとの提携と比べ、ユニオンバンクは協業の効果が見いだしにくい面もあった。個人預金を集めるため、ネット経由の預金サービスを17年に開始。顧客を開拓するため軽量型店舗「ピュアポイント」を地盤の西海岸以外にも展開したが、人件費などがかさんだこともあり20年に廃止した。

MUFGは攻守ともに既存の銀行モデルの転換を図っている。20年には東南アジア配車最大手のグラブに出資し、顧客への小口融資など金融サービスを展開する。12月からは東京海上日動火災保険や大和証券グループ本社などグループの垣根を越えて金融商品をアプリで提供するサービスも始めるほか、キャッシュレス決済分野ではリクルートと組む。

国内でも楽天グループやLINEなどのIT（情報技術）企業が独自の顧客基盤を生かして金融事業に参入している一方、低金利環境の長期化で預貸の利ざやで稼ぐ従来型の銀行のビジネスモデルは収益が上がらなくなっている。今回、ユニオンバンクのリテール部門を切り出すのは、日米問わず、伝統的な商業銀行モデルでは稼げなくなっていることを映す。

MUFGの亀澤宏規社長はかねて「我々こそ金融プラットフォーマーになる」と語ってきた。海外企業との連携や国内での新しい金融サービスを投入し、聖域をつくらずに事業構造の抜本的な見直しを進める。今回の売却で得た現金や資本余剰は株主還元のほか、デジタルへの成長投資にも振り向ける考えだ。

国内の銀行事業でも改革が進む。三菱UFJ銀行は24年春までに店舗網を縮小し、その上で5割にあたる約160店を大幅に業務を絞った店舗や軽量店舗とする。デジタル化を進めるとともに、実店舗の運営コストを引き下げ、筋肉質な事業運営に移行したい考えだ。

（ニューヨーク=大島有美子、須賀恭平）

　USバンコープ　米最大の地銀で、本社は中西部ミネソタ州ミネアポリス。「USバンク」の名称で、全米約2300店で店舗を展開している。西海岸を含み、全米の約半数に当たる26州に店舗網を持つ。米連邦準備理事会（FRB）によると6月末時点の米国内における総資産額は約5500億ドルと、全米ではシティグループに次ぐ第5位だ。
　ユニオンバンク　三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下で米西海岸に約300店の店舗を展開する米地銀。総資産額は1330億ドルで、全米で27位。前身となった銀行は150年超の歴史を持つ。住宅ローンなど個人向け業務から法人融資まで、フルバンキング機能を持つ。

（日本経済新聞）