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フィンテックに新風、ゴールドマン遺伝子の運用革命 フィンテックエディター 関口慶太 2020/5/11

世界有数の投資銀行であるゴールドマン・サックスが日本のフィンテック業界への人材供給源になっている。2010年代に創業した暗号資産(仮想通貨)のビットフライヤーホールディングス(東京・港)などに続き、資産運用サービスなどで第2世代の起業が相次ぐ。既存の金融秩序を塗り替えようとするゴールドマン出身の主に30代の経営者たちが、新型コロナウイルスによる経済・社会構造の変革も追い風にしようとしている。

「損が出ているのに運用手数料をとられるのはおかしいと思いませんか」。日本橋兜町の東京証券取引所に近いビルに入居するsustenキャピタル・マネジメント(東京・中央)。代表取締役の岡野大氏(32)はこんな疑問を抱き続けてきた。

今夏に立ち上げる資産運用サービスは、スマートフォンでいくつかの質問に答えるだけで世界の債券や株式にお任せで分散投資する。これだけだとコンピュータープログラムが運用を指南するロボットアドバイザーと大差なく見える。最大の違いは、投資家に損失が出たら運用手数料がゼロになる点だ。
例えば、年間の投資損益がマイナスになった場合は投資家が支払うコストは0.04%の管理費用のみ。年利2%のプラスになった場合は最大0.25%分がsustenの取り分になる。
損を出しても一定の手数料が取られる「フィーベース」が業界の常識だっただけに、利益が出て初めて課金する「プロフィットシェア」は極めて異例だ。
こんなとがったビジネスモデルのアイデアは12年から在籍したゴールドマンの運用部門であるゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントで培われた。高度な手法を駆使する機関投資向けビジネスに携わる中で「個人はどうして運用の武器が少ないんだ」との思いが募った。米ゴールドマン・サックスで約15兆円に及ぶ北米機関投資家の計量運用を率いていた山口雅史氏(37)を口説き、共同創業した。
sustenは一例にすぎない。ゴールドマンは日本のフィンテックの黎明(れいめい)期から日本で数多くの起業家を輩出してきた。資産運用サービスを手がけるフォリオ(東京・千代田)の甲斐真一郎社長(38)、オンライン融資プラットフォームのエメラダ(東京・港)の沢村帝我社長(34)――。
これら2010年代半ばの起業組がフィンテック第1世代とすれば、足元でサービスを立ち上げているのは第2世代にあたる。
個人投資家が考えた投資ポートフォリオの運用成績を即時で把握できるサービスをまもなく投入するのが、クリプタクト(東京・新宿)だ。代表取締役のアズムデ・アミン氏(39)はゴールドマンでシステム開発に携わったIT畑。ファンドマネジャーとしての投資経験を積んでいた同僚の斎藤岳氏(37)を誘い、18年に起業した。スマホ時代の投資家が切磋琢磨(せっさたくま)し合うソーシャルトレーディングの世界づくりに挑む。
ゴールドマン出身の起業家が多い理由はいくつかある。20代前半から重要な仕事を任され、結果を出せなければいつ首を切られてもおかしくない環境に置かれる。その分だけ社員の成長スピードは速い。同社の幹部には自らの資金をスタートアップに投じるエンジェル投資家が多く、起業に際しての最初の資金(シードマネー)を調達しやすいことも大きいようだ。
クリプタクトの斎藤氏は「リスクを取ることに前向きなカルチャーに染まることができたことが今につながっている」と話す。ゴールドマンの経営陣はこうした起業する社員の挑戦を受け入れてきた。
ゴールドマンを経て自らエンジェル投資家になった福岡俊樹氏(41)はJPモルガンなどに在籍した長谷部直大氏(41)とタッグを組み、FINPLANET(東京・渋谷)を創業した。保険と証券の中立的なアドバイスをスマホ経由でおこなうサービスを開発中だ。
「金融商品の販売に携わるなか、どうしても押しの強い営業への疑問を拭いきれなかった」(福岡氏)。純投資で投資先の価値向上を狙うのではなく、自ら起業することで社会を変える決断をした。
卒業生たちがフィンテック業界に転出することを当のゴールドマンはどう考えているのか。多くの起業家を指導してきたゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの桐谷重毅社長(57)は「テクノロジーが金融のあり方を変える動きは新型コロナウイルスの流行をきっかけに加速するだろう」と話す。
実は米ゴールドマン自身も伝統的な投資銀行部門の収益が頭打ちになるなか、フィンテックに活路を見いだす。デービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)は「店舗などのレガシー(遺産)を持っていないことが強み」と語っており、フィンテックを武器として個人向けサービスを拡充する戦略を描く。
背景にあるのが、個人情報の争奪戦だ。米グーグルは決済カードの発行を検討している。米GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が決済分野を握れば、個人や企業の資金の流れを押さえられてしまう。銀行業ライセンスを自ら取得し、預金や決済などをスマホ上で完結させる英Revolut(レボリュート)のようなチャレンジャーバンクも脅威になる。
ゴールドマンは暗号資産の分野で米サークルに出資するなど海外で40件超のフィンテック関連の投資をこなしてきた。ただ日本のフィンテック企業は「小さすぎて(投資対象の)ラインにのってこない」(桐谷氏)という。18年にゴールドマンがフォリオに出資した例はあるものの、あくまで純投資だった。
ゴールドマンの卒業生が、古巣のゴールドマン本体に「一緒にビジネスをしたい」とまで思わせる。そこまで成長する姿を描けてこそ、日本のフィンテック業界は既存の金融秩序を揺さぶる勢力になり得る。

(日本経済新聞)

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