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危機で加速 寡占の歴史  米買収資金320兆円、M&A増加か 独禁当局「雇用」と板挟みも 2020/5/23

新型コロナウイルス危機で、市場の寡占化が進むとの懸念が米欧を中心に強まっている。経営が傾いた企業を体力のある大手が買うとの見方からで、危機収束まで買収を制限する案まで出ている。だが買収が倒産を防ぎ雇用を守るのも事実。独禁当局はどう向き合うのか。

「危機収束まで大型のM&A(合併・買収)は棚上げすべきだ」。米民主党の有力議員で、下院反トラスト小委員長のシシリーニ氏は4月そう訴えた。米投資ファンドやハイテク大手が買収に使える資金は合わせて3兆ドル(約320兆円)超との試算を示し、「買収で寡占が進む」と警告した。
そこへ米配車サービス大手ウーバーテクノロジーズが料理宅配のグラブハブに買収を提案したことが5月半ばに明らかになった。実現すれば市場の約55%を握るだけに、シシリーニ氏は「危機に乗じ不当利得を得るのか」とかみついた。
コロナ危機で医療・医薬品分野の企業買収に注目が集まるが、影響は広範に及びそうだ。食品大手ネスレのシュナイダー最高経営責任者(CEO)は、コロナ危機で傾く企業ばかりを狙うわけではないとことわりつつ「昨年よりも精力的なM&Aをめざす」と述べた。
歴史を振り返れば、経済危機が寡占を加速させた代表例は1873年の大不況だろう。ロックフェラーは経営難に陥った同業の石油精製業者を買い集め、数年で市場の9割を握った。
銀行家モルガンも潤沢な資金で鉄道や鉄鋼会社の買収・統合を進めた。これら独占に対抗し、1890年に成立したのがシャーマン反トラスト法だ。
当時の重厚長大からハイテクへ、金融資本からファンドへ。顔ぶれは変わったが、似たような状況が生まれつつあるのかもしれない。
パンデミック独占禁止法案――。寡占化への危機感からそんな法案をまとめたのは米民主党の元米大統領候補、ウォーレン上院議員とオカシオコルテス下院議員だ。
売上高が1億ドル以上の企業やファンドを対象に大規模な統合や買収を禁じる内容。感染症に絡む特許をもつ企業の買収も凍結する。
共和党が多数の上院で法案が支持を得る可能性は低いが、議論を喚起したのは間違いない。
米司法省反トラスト局のデラヒム局長は米テレビ番組で統合をすべて禁じるのは「見当違いだ」と批判。むしろ危機下で運転資金を確保し従業員を守るには「非常に大事だ」と述べた。
ただこの発言には、なし崩しで寡占を認めるのかとの反論も出ている。
英競争・市場庁は昨年末、米アマゾン・ドット・コムが英料理宅配のデリバルーへの出資を決めた際に徹底調査を約束したが、先月デリバルーの財務悪化を理由にあっさり承認した。
08年危機後も
2008年の金融危機の後も世界のM&Aは加速した。危機直後こそ金額は減ったが、15年には過去最高を更新し、件数は一貫して堅調を保った。株価下落や低金利を背景に安値での企業買収が活発化した証しだ。
この間、市場の寡占化は進んだ。米欧研究者の18年の分析では、米産業の75%で寡占率が20年前より上昇。特に金融危機後は企業数の減少も相まって寡占が加速した。
この傾向は今後も続くのか。カギとなるのは独禁政策の行方だ。
米独禁政策は1980年代に大きく変質した。当局の介入より市場に委ねよ。独占そのものでなく価格低下など消費者への恩恵に着目せよ――。「小さな政府」を掲げるレーガン政権下で力を増したシカゴ学派の影響で、そんな考えが浸透し、違反の摘発も急減した。
だが巨大IT企業などの圧倒的な力を前に、独禁政策の立て直しを求める声が高まったところへ今回の危機は起きた。
勝ち組の力は分野を問わず増大し、とりわけデジタル分野では新興勢力の芽を摘む先制的な買収なども勢いづきそうだ。
雇用や経済に配慮しつつ、こうした新たな独占にどう歯止めをかけるか。目先と将来をにらんだ議論は待ったなしだ。
(編集委員 西村博之)

(日本経済新聞)

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