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中国、強まる国家統制 よぎる「文革」の記憶 2021/09/08

中国共産党創建100年を記念する祝賀大会で演説する習近平国家主席(北京の天安門)=新華社・共同

中国の習近平(シー・ジンピン)指導部が社会や思想への統制を強めている。企業経営者への批判に加え、芸能や教育など若者の思想形成に影響力を持つ業界への介入が相次ぎ、中国はにわかに「文化大革命」の様相も帯びる。こうした動きは経済成長やイノベーションを阻害しかねない。米国に迫る経済大国となった中国が内向きに転じれば世界経済も無傷ではいられない。

4日、中国のSNS(交流サイト)「微博」がこんな声明を出した。「非理性的なスター追従行為に断固反対し、厳正に処理する」

同日、あるアイドルの誕生日を祝うファンクラブが飛行機の外観を飾るという派手な行動で注目を集めていた。

折しも中国はファンクラブ規制を出したばかり。背景には、熱狂的にアイドルを崇拝し、共産党の思想に沿わない集団を生むことへの懸念がある。微博は中心人物のアカウント利用を60日間停止し、党の意向に迅速に対応した。

8月末には18歳未満のゲームを「金土日や祝日に1日1時間」に限る規制が発表された。若者を夢中にさせるゲームも共産党は「精神的アヘン」として危険視する。

芸能界は最大の標的だ。8月下旬には著名芸能人が脱税や不正などを理由に罰せられたり職を失ったりした。多くの有名作品も消えた。党中央宣伝部は9月2日、芸能人、番組、広告、関連企業などを党が厳しく管理し、思想教育を強化すると通知した。中国の芸能界は今後、メディアと並び名実ともに「党の舌(党の宣伝機関)」となる。

「文化」を通じた社会統制は1966年に始まった文革をほうふつとさせる。毛沢東に扇動された若者らが指導者や知識人を攻撃した。毛の死で終結したものの、文革10年間のうち3年でマイナス成長となるなど経済は壊滅的打撃を受けた。

その後、指導者となった鄧小平は経済再建へ改革開放を始めた。もし今、中国が「富める人らをたたく」発想で文革時代に先祖返りするならば、経済成長は止まり、習指導部にも負の影響は及ぶ。それでも統制を強める動きは止まらない。

8月29日、評論家の李光満氏が書いた檄文ともいうべき論文が注目を集めた。「誰もが感じられる深い変革が進んでいる」と題し、最近の芸能界やIT業界への当局の介入を社会主義に回帰するための「重大な変革または革命」と賛美する内容だ。

異例だったのは、個人の論文を「光明日報」のサイトが掲載し、同日夜には「人民網」「新華網」「中国軍網」「央視網」など党傘下の代表的メディアがそろって転載したこと。文革も1965年秋、上海紙「文匯報」に掲載された京劇「海瑞罷官」に関する文芸批評が号砲となったことを想起させる出来事だった。

教育も統制が進む。9月の新学期からは小中高で習近平思想(習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想)が必修化された。習思想の「学生読本」を週1時間ほど道徳の授業で学ぶ。読本には習氏の地位の重要性や「習氏の金言」が並ぶ。

小学生用は「習近平おじいさん」と親しみやすさを強調し、中学生用は軍拡の必要性に言及。高校用は広域経済圏構想「一帯一路」の重要性に触れる。中国教育省幹部は8月の記者会見で「学生は絶えず党の指示を聞き党に従う」と語った。

個人の名を冠した思想教育は個人崇拝と隣り合わせだ。「毛沢東に権力が集中しすぎたゆえに招いた文革の再来が恐ろしい」。共産党関係者は声を潜める。

企業家への締め付けも続く。8月下旬の微博では突然アリババ集団の話題で盛り上がった。その頃「粛清」された芸能人にアリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏と関係が近い著名人が複数含まれ「マー氏の立場も危うい」との受け止めが広がったたためだ。

グループのスマホ決済アプリ「支付宝(アリペイ)」から「お金を引き出しておくべきかどうか」。サービス存続を危惧する利用者たちはアプリの凍結で資金を失いかねないとの不安を抱いた。

中国のIT大手は馬氏の轍(てつ)を踏まないよう、習氏が格差是正に向けて掲げる政策「共同富裕」の実現に向け、競うように巨額の寄付に走る。企業家を動かす原動力が恐怖と不信になれば、中国のイノベーションも止まりかねない。

文革は資本家や知識人をつるしあげただけではない。毛が政敵を追い落とす政治闘争に主眼があった。今回もそうした側面は否定できない。馬氏らIT企業の経営者らは江沢民(ジアン・ズォーミン)元国家主席と関係がある。中国や香港の芸能界は江氏側近の曽慶紅元国家副主席一族が強い影響力を持つ。

「文革2.0」がもし発動されれば中国の地殻変動につながる可能性もある。そして内向きの中国は世界のリスクでもある。

(中国総局 桃井裕理、羽田野主)

(日本経済新聞)

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