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「日本戻らぬ」 ノーベル物理学賞、真鍋氏の教訓 協調優先で頭脳流出 2021/10/09

私が日本に戻りたくないのは「調和」の中で生きる能力がないから――。2021年のノーベル物理学賞受賞が決まった米プリンストン大学の真鍋淑郎・上席研究員が記者会見でこんな言葉を残した。ジョークと受け止めた会場では笑いが起きたが、そこには日本からの「頭脳流出」を防ぐ重要な教訓が含まれる。

真鍋氏が渡米したのは1958年。「大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が上がると地球の気温が上昇する」ことを、コンピューターを使ったシミュレーションで解き明かしてきた。

冒頭の発言は、5日の記者会見で国籍を米国に変えた理由を問われたときの答えだ。「日本人は互いに邪魔しないように協調する」のに対し「米国では他人が感じることをあまり気にする必要がない」と違いを指摘。自身には米国が合っていたと振り返った。

真鍋氏は渡米後も日本で仕事をした時期がある。97年、科学技術庁(現・文部科学省)傘下の機関で温暖化予測研究の責任者に就任した。だがその生活は長くは続かなかった。本人への取材をもとに真鍋氏が米国に戻ることを報じた01年の記事にはこう記されている。

「所管が違う様々な研究機関との間の忍耐がいる調整業務、研究スタッフの不足、本音を率直に話さない日本独特の習慣――。米国では考えられなかった本来の研究以外の苦労が重くのしかかっていたことが言葉の端々からうかがえた」

米国では好きなだけ研究に打ち込めた。「上司が寛大で、研究で何でもやりたいことができた。コンピューターを使いたいだけ使えた」という。米国にも縦割り組織の弊害はあるが、日米両方で勤務した真鍋氏だからこそ発言に重みがある。

日本の科学技術の現状について問われると「好奇心に駆られた研究が少なくなっている」と指摘した。国内では安定した資金やポストの不足で研究現場の閉塞感が強まり、画期的な成果が生まれにくくなっている。

文科省科学技術・学術政策研究所によると、引用数が上位1%に入る「トップ論文」の数で日本は18年(17~19年の3年間の平均)に世界9位。20年前の4位から大きく順位を落とした。ノーベル賞の受賞も遠からず途絶えるとの見方は多い。

真鍋氏が構造的な問題として指摘したのが、科学者と政策決定者のコミュニケーション欠如だ。研究者と永田町や霞が関の距離は遠く、新型コロナウイルス感染症を巡っても、両者の意思疎通の不足が表面化した。

近年、ノーベル賞の受賞者たちは口々に「日本の科学技術の危機」を訴えてきた。その声は一時的に関心を集めても、抜本的な対策につながったとは言い難い。真鍋氏の言葉を教訓に、改めて対応を考える必要がある。

(ニューヨーク=大島有美子、AI量子エディター 生川暁)

(日本経済新聞)

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