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KKRジャパン社長 平野博文氏 歴史に学び 未来を読む  リーダーの本棚 2021/07/03

両親の影響で小さいころから本が好きだった。銀行員の父親の転勤で小学時代は米国で4年間暮らした。
「母に薦められた坪田讓治の『風の中の子供』が最初の読書体験です。小学2年で米国に渡り、リンカーンなどの伝記をよく読みました。日本に戻った中学時代は人生で純文学を一番読んだ時期。遠藤周作の『沈黙』や島崎藤村の『破戒』、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』に感銘を受けました」
「大人になって読んだ本ですが、米国で暮らした小学時代の自分が同じようなことを考え、外資系ファンドで働く今も同じことをやっていると感じるのが、新渡戸稲造の『武士道』です。日本人はどういう人間なのか自分の言葉で説明しないと海外では理解してもらえません。日本文化の本質を英語で伝えようとした新渡戸に共感します」
大学時代は金融には興味がなく、就職は出版社を志望していた。
「中学3年の時に『月刊プレイボーイ 日本版』が出て、斬新な編集やデザインに驚きました。好きな作家だった柴田錬三郎や開高健、ノーマン・メイラーらが連載や短編を書いており、出版元の集英社に入りたかった。しかし、面接日が主将だったフェンシング部の早慶戦と重なってしまいます。先輩から『どっちが大事か分かってるな』と脅され、泣く泣く諦めました」
日興証券(現SMBC日興証券)に入り、入社5年目に社費留学で米シカゴ大のビジネススクールに通う。
「濃密な2年間でした。原書で苦労して読んだ『証券分析』は今もよく読み返します。留学時にKKRによるRJRナビスコの巨額買収が起き、内情を描いた『野蛮な来訪者』が発売されました。米国では日本の金融では考えられないことが起きていると感心しましたが、まさか自分がその会社で働くことになるとは思いませんでした」
「日本に戻ると深夜まで仕事に追われる毎日です。損失補填、総会屋問題、山一証券の自主廃業、米シティグループと日興の合弁設立……。バブル崩壊の後処理に忙殺され、1990年代後半までは本をちゃんと読んだ記憶がありません。当時読んで唯一心に残っているのが高杉良の『小説 日本興業銀行』です。産業再編に辣腕を振るう主人公の中山素平に憧れました」
率いていた日興プリンシパル・インベストメンツで不正会計問題が発覚し、責任をとって会社を辞める。
「会社をクビになり長編小説を読む時間ができました。『待て、而(しか)して希望せよ』という言葉が心に染みたのが『モンテ・クリスト伯』です」
「失業中も朝起きる習慣を続けるため、日中学院の早朝コースで中国語の勉強を始めました。『論語』の勉強会で出会ったのが守屋淳先生です。仕官の願いがかなわない中、社会を恨まず自らを諭す孔子の『人知らずして慍(いきどお)らず、また君子ならずや』という言葉には、はっとさせられました」
KKR共同創業者のヘンリー・クラビス氏とジョージ・ロバーツ氏はたびたび「推薦書」を送ってくる。
「ヘンリーは、自身も親交がありその理想主義に影響を受けたというキッシンジャーの『外交』や『キッシンジャー回想録 中国』などの原書を送ってきます。大きな視点に立って、世界の動向を読む際の参考になります」
「長期投資のプライベート・エクイティ投資は、次に何が起きるのか未来を読む仕事でもあります。そのために歴史に学べとヘンリーやジョージからよく言われます。ウォーラーステインの『近代世界システム』は国や地域の覇権争いの歴史をひもときます。覇権の変遷をたどりながら、脱炭素でゲームチェンジを仕掛けようとする今の欧州の狙いに思いをはせたりします」
「大学時代に心理学科の行動科学を専攻し、人の行動を変える方法論に昔から関心があります。リチャード・セイラーらの『実践 行動経済学』は、ファンド投資先のステークホルダーに行動変容をどう働きかけるかのヒントに満ちています。『交渉は勝ち負けではない』という考えを解説した『交渉の達人』は、うちの社員の必読書に指定しています。交渉に臨む際の視点が大きく変わります」
(聞き手は編集委員 川崎健)

【私の読書遍歴】
《座右の書》
『近代世界システム』(全4巻、I・ウォーラーステイン著、川北稔訳、名古屋大学出版会)
『実践 行動経済学』(R・セイラー、C・サンスティーン著、遠藤真美訳、日経BP)。人の行動変容を促すプライベート・エクイティ投資に有益なヒントばかり。
『証券分析』(B・グレアム、D・ドッド著、関本博英・増沢和美訳、パンローリング)。頻繁にひもとく証券マンのバイブル。
《その他愛読書など》
(1)『モンテ・クリスト伯』(全7巻、A・デュマ著、山内義雄訳、岩波文庫)
(2)『ビジネス教養としての「論語」入門』『最高の戦略教科書 孫子』(いずれも守屋淳著、日本経済新聞出版)
(3)『野蛮な来訪者』(上・下、B・バロー、J・ヘルヤー著、鈴田敦之訳、パンローリング)
(4)『交渉の達人』(D・マルホトラ、M・ベイザーマン著、森下哲朗監訳、高遠裕子訳、日本経済新聞出版)
ひらの・ひろふみ 1961年東京都生まれ。83年慶大文卒、旧日興証券入社。03年取締役、07年に辞任。アリックスパートナーズ日本代表を経て、13年から現職

(日本経済新聞)

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