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テマセク、東南アのデジタル化に照準 ネット新興企業に出資  新興シンガポール政府系ファンド  2021/07/13

テマセク・ホールディングスの2021年3月期の運用利回りは25%に達した=ロイター

【シンガポール=中野貴司】シンガポールの政府系ファンド、テマセク・ホールディングスが東南アジアなどの新興企業の成長を取り込んでいる。2021年3月期の運用利回りはプラス25%と高水準を確保した。足元では出資する中国ネット企業への規制が強まっており、こうした中国当局の動向が投資戦略にも影を落としかねない。

テマセクが13日に発表した2021年3月期の運用実績は利回りが25%と、10年3月期(43%のプラス)以来の好成績だった。運用資産も3810億シンガポールドル(約31兆円)と1年間で750億シンガポールドル増えた。

世界的な金融緩和により資金が株式市場に流れ込み、保有する上場企業の株価が上昇した。米民泊大手エアビーアンドビーや米料理宅配ドアダッシュに加え、中国のショート動画、快手科技(クアイショウ)といった投資先の大型上場も相次いだ。

テマセクは21年3月末時点で31兆円の運用資産の27%を中国に、20%を米州に振り向けている。米中の間で中立的な立場を取るシンガポールの立ち位置を生かし、両国の金融機関や投資家と情報網を築き、有望なネット企業にいち早く出資してきた。

調査会社グローバルSWFによると、テマセクが20年にネット通販などのテック企業に投じた額は23億ドル(約2500億円)と、世界の政府系ファンドでは最多だ。

今後もこうした有力なテック企業の上場計画が控える。期待が大きいのは東南アジアや南アジアの出資先だ。シンガポールの配車大手グラブは年内に特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じ、米ナスダック市場への上場を予定する。

ほかにインドの料理宅配大手、ゾマトが月内に上場する。テマセクがそれぞれ出資するインドネシアのゴジェックとトコペディアも経営統合を発表するなど、上場計画や再編が相次いでいる。

テマセクで東南アジア投資を担当するフォック・ワイフン氏は13日、「新型コロナにより東南アジアのデジタル化は加速しており、今後のデジタル市場の拡大にも楽観的だ」と説明した。いまはユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)の予備軍となるスタートアップの発掘に力を入れており、東南アジアや南アジアへの投資割合を引き上げる可能性がある。

一方、リスクとして浮上しているのが中国当局の動きだ。4日に配車アプリ大手、滴滴出行(ディディ)のアプリで個人情報の収集と利用に関する法律や規制への違反を確認したと発表した。中国当局は滴滴も含め米国で最近上場したネット企業3社について国家安全上の理由で審査を始めた。海外に上場予定の中国企業も、個人情報登録ユーザー数が100万人超の場合は審査すると発表した。

テマセクの開示資料によると、同社は15年3月期までに滴滴に出資し、16年3月期に追加出資した。滴滴の時価総額は6月末の上場時に730億ドルに達したが、当局の動きが嫌気され足元では540億ドル前後にまで下がっている。スマートフォンのアプリのダウンロードの停止措置により事業展開に悪影響が出れば、さらに株価に響く可能性もある。

ほかにテマセクが出資するアリババ集団傘下の金融会社アント・グループも20年11月、上海と香港で予定していた同時上場を直前に突然延期した。テマセクはアリババ株も保有している。中国当局は同社に独占禁止法違反があったと認定し、過去最大の罰金を科した。

テマセクは13日、こうした中国政府の動向による影響を否定した。

同社幹部のムクル・チャウラ氏は「中国以外の案件でも常に規制変更のリスクは念頭に置いており、今後も中国に投資し続ける」と強調。投資部門を共同統括するナジ・ハミエ氏も「我々が投資する中国企業は国内のデジタル化や消費行動の変化の波に乗っており、米中摩擦の影響は限定的だ」と懸念の払拭に努めた。

だがテマセクのような海外投資家にとって、中国当局の方針によって保有する中国企業の企業価値や株価が左右されるリスクは確実に高まっている。既に投資した企業の出口戦略だけでなく、これから中国企業への投資を検討する際にためらう要因となる。

グローバルSWFのディエゴ・ロペス氏も「中国当局の規制強化はテマセクにとってリスク要因となる」と指摘する。世界中の上場、未上場企業に投資するテマセクにとって、地政学的なリスクへの目配りが一層求められるようになる。

(日本経済新聞)

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