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若者に投資、地方の中小 元気に ジャパン・サーチファンド・アクセラレーター社長 嶋津紀子 2020/9/16

「新型コロナウイルスで廃業リスクが高まり、すぐにでも会社を譲りたいという経営者が増えている」。ジャパン・サーチファンド・アクセラレーター(JaSFA、東京・中央)社長の嶋津紀子(35)は危機の先に自らの存在意義を見据える。後継難に悩みながら、売却に踏み出せなかった中小企業が変わり始めたと感じるからだ。

嶋津が仕掛けるのは経営者を志す若者が自ら資金を募り、買収先を経営する「サーチファンド」。米国発のモデルを日本に持ち込み、若者の選抜や投資家の紹介、企業探しの支援に取り組む。「地方には海や山、おいしい食事もある。魅力的な仕事が増えれば移住も増える」と、地方経済の活性化と経営者育成という二兎(にと)を追う。
一般のファンドと異なり、投資対象は「サーチャー」と呼ばれる若者。若者は投資家から報酬を受け取りながら2年ほどかけて買収先を絞り、ファンドが株式を取得して株主となる。若者は経営者となって収益を上げていくのが基本的な仕組みだ。
JaSFA自体が若者に投資する。地方銀行の山口フィナンシャルグループ(FG)と共同ファンドを運営し、単独での支援も手がける。投資したサーチャーはこれまで6人で30代が中心。山口や福岡、広島の3県で活動し、1人は今年2月、初めて企業買収にこぎ着けた。
サーチファンドは「買収の提案者と次の経営者が同じなので、買収される側の企業の経営者は信頼できる相手かどうか見極めやすい」のが利点だ。社名を守りたい、ライバルに売却するのは嫌だ――。中小企業の経営者のニーズは千差万別で、長く事業を続ければ感情も複雑に絡む。仲介事業者に見向きもしなかった経営者が関心を示すなど、この仕組みに「はまる会社はある」と手応えを感じる。
地方とは無縁で育った。専業主婦で困った人を放っておけない母は「持って生まれた能力は人のために使う義務がある」と教えた。公団職員の父は「公団のためでなく、国のために働いている」と自負していた。「世の中のために何ができるか」。小学生時代から考えた。

「ピザって知ってる?」。2001年に短期留学した米ミネソタ州の高校でこう聞かれた。同級生は日本の場所すら知らず、日本人はピザを食べるのかと本気で質問してくる。「もう一度、世界経済をけん引できる国にしたい」。東大経済学部に進み、一つの企業の利益に縛られずに経済の担い手を支えたいと米ボストン・コンサルティング・グループの門をたたいた。
泊まり込みもいとわず働いたが、時間をかけて準備したM&A(合併・買収)の案件が顧客の意向ひとつで破談になることも多い。「大企業になるほど1%の改善にかかる労力が大きい。日本経済全体にインパクトをもたらせているのか」。徐々に疑問を抱くようになった。
15年に思い切って休職し、米スタンフォード大学に留学した。そこでサーチファンドに出合う。優秀な人材のキャリアパスの一つとなっていた。西海岸では住宅が広く、自然も身近。「日本でここに見合う場所は東京ではなく地方だ」。求めていたパズルのピースが埋まった。
日本企業による付加価値のうち5割は中小が生み出している。地方を活性化すれば「大企業をよくするよりも日本経済を底上げしやすい」。もともと会社の先輩で一緒に米国に留学していた夫の創(35)と大学に向かう車中でアイデアを温めた。
帰国後の17年から企業や投資家を訪ね歩いた。「融資先企業の廃業に直面する地銀なら理解を得られるのでは」と訪ねた山口FGが賛同してくれ、翌年、夫婦でいまの会社をつくった。嶋津が戦略を担い、創がCIO(最高投資責任者)を務める。
若者を呼び込むだけなら補助金で移住を促す手もあるが「資本主義として成り立っていなければ持続しない」と思う。経済の流れのなかに担い手や投資が自然に生まれる循環をつくる。「例えば次のユニクロは石川県に生まれるかも」。地方からのゲームチェンジに挑む。

(日本経済新聞)

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