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International Political Economy Updates
ポイント
○域内でのデジタルデバイドの拡大が課題
○供給網の可視化へデジタル化の推進急務
○循環型経済には地域全体で取り組む必要
東南アジア諸国連合(ASEAN)では、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)はなお終息していない。経済は持ち直しつつあるが、パンデミックが暗い影を落としている。
ASEAN事務局のデータによると、実質国内総生産(GDP)がパンデミック前の水準まで回復したのはインドネシアやベトナムなど一部に限られる(図参照)。他の加盟国は年内に回復できるかどうかというところだろう。サプライチェーン(供給網)の混乱や国際金融環境の変化などのリスクにも直面している。
こうした状況で、ASEANはポストコロナの世界が突きつける課題に立ち向かう準備ができているのだろうか。特にデジタル化や持続可能性の重要性が一段と高まるなど、パンデミックで顕在化した新たな動きに対応できるのだろうか。
これらはASEANにとって目新しい課題でなく、コロナ前から様々な形で取り組んでおり、立ち向かう準備はできている。パンデミックは課題の重要性を一層高め、直ちに行動に移す必要性を浮き彫りにした。
もう一つ重要な点は、そうした準備を具体的で実のある結果に結びつけられるのかということだ。デジタルトランスフォーメーション(DX)を十分に加速できるのか。また気候変動への対応や低炭素社会への移行など持続可能な開発に地域として取り組めるのか。
まず第1の課題であるDXについては、ASEANはここ3年にわたりデジタル開発を優先課題としている。特にデジタルインテグレーション(統合)、電子商取引(EC)、データガバナンス(統治)を中心に、地域として計画や声明を発表し、包括的な共通課題を掲げ、行動を喚起してきた。
2021年1月にはデジタル経済を支える包括的な枠組みとして「ASEANデジタルマスタープラン2025」を策定した。またコロナ危機への対応としてデジタル化を推進すべく新しい計画が相次ぐほか、経済閣僚会合でデジタル経済枠組み合意も発表された。
だが実際の進捗状況には合格点はつけられない。特に問題なのは、域内でデジタルデバイド(情報格差)が拡大していることだ。ASEAN経済に占めるデジタル経済の比率は7%程度にすぎず、その半分近くが都市部に集中している。
女性のスマホ保有率は男性より低く、モバイルインターネット接続が制限されている。また中小企業のデジタル統合化率は16%程度と大企業に見劣りする。パンデミックでデジタルデバイドは一層拡大しており、コンピューターとネット接続環境を確保できる人はコロナ下でも仕事や学習が続けられるが、そうでない人は取り残されている。
ASEANではデジタル化は望ましい水準に達していない。品質、アクセス、価格、インフラ、競争、スキル、包摂性、政策など様々な面でなお改善の余地があり、DXの準備を整えるには投資が必要だ。優先課題は、金融のデジタル化(デジタル決済の拡充によるECの成長加速)、デジタルスキル開発(デジタル化社会への対応に必須の能力、スキル、知識の開発)、市場環境の整備(生産的なデジタル部門を支える法律、政策、規則の導入)だ。
ASEANの未来にとって、サプライチェーンのデジタル化の推進や、貿易と市場統合の支援は欠かせない。デジタル化によりサプライチェーン各段階の実態を把握して可視化することで、将来のショックに的確に対応し影響を最小限に抑えられるようになる。デジタル化は製造業、サービス業ともに、産業レベルでサプライチェーンの復元力を強化する役割も果たす。
例えば先進的な追跡技術に投資すれば、サプライチェーンの可視化を加速できる。ビッグデータの活用により、出荷遅延や品質問題、予想外の通関遅れなど、サプライチェーン内の問題の所在を容易に突き止められるようになる。関連書類にブロックチェーン(分散型台帳)などの技術を活用すれば、安全で変更不能な記録を残し、取引の完全性を確保できるようになる。
さらにグローバルサプライチェーンを保護する技術の開発も急務であり、ASEANは積極的に支援すべきだ。重要なのは、サプライチェーンの自動化と管理の円滑化、ECの強化、地域サプライチェーンのデジタル化を目的とした投資の増強、サイバーセキュリティー強化、デジタルスキル開発など人的資源の質的向上のための協力推進だ。
ASEANはコロナ下でも円滑な貿易推進のため越境取引のペーパーレス化を進めており、デジタル書式による貨物の通関・引き取りや輸入許可・免許申請などの改革を実行してきた。
DXを主導するのは市場のメカニズムであるべきだが、政策介入により後押しすることが可能だ。東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)が実施したパンデミック期間中のASEAN地域経済活動調査によると、デジタル化を進めた企業は全体の23%にとどまる。中小企業ではその比率はさらに低かった。
特に中小企業向けにデジタルスキル教育や技術・金融支援を強化すれば、デジタル化の推進に寄与するだけでなく、コロナ後の経済ショックに対する中小企業の脆弱性克服に役立つはずだ。情報通信技術(ICT)開発とデジタル貿易の円滑化に向けて地域全体で協力し、市場と業界団体が支えていくことが重要だ。
次に、第2の課題である持続可能な開発(気候変動への対応や低炭素社会への移行など)を検討したい。
いま必要なのは、地域としてより包括的に取り組むことだ。ASEANは21年に循環型経済フレームワークを採択し、良いスタートを切った。だがここでもまた真の難題は、どう実行するかということだ。各国ばらばらではなく地域として取り組むには、ASEAN共同体の3つの柱(政治・安全保障、経済、社会・文化)にまたがる統合的なアプローチが望ましい。
持続可能な開発への取り組みを東アジアのサプライチェーン強化に組み込むケースを考えてみよう。ASEANは、域内貿易の最大化を図るために東アジアのパートナーと協力し、サプライチェーンの強化・高度化、復元性・持続可能性・生産効率のバランスの良い改善を実現できるはずだ。
そのためにも産業政策を整備し、特にグリーン事業の拡大とグリーンイノベーション(技術革新)の推進を促す必要がある。産業と経済の成長にとって、持続可能なエネルギーシステムは今後必須のインフラだ。さらに製品設計の改善、原材料やエネルギー利用の効率化、グリーン調達の推進といった課題について地域全体で協議を始めるなら、循環型経済への移行を加速することも可能になる。
ASEANは新しい動きを見据えて地域経済を統合し、ポストコロナ経済をかじ取りする将来への指針とすべきだ。デジタル化と持続可能な開発は単なるお題目ではなく、2025年以降のASEAN構想に欠かせない要素となるべきだ。
Aladdin D. Rillo ハワイ大博士(経済学)。
ASEAN事務局、アジア開発銀行研究所などを経て東アジア・アセアン経済研究センター上級経済顧問
(日本経済新聞)